「地震、原発止めず大丈夫? 川内停止要望、約5000件」

amamu2016-04-30

 以下、朝日新聞デジタル(2016年4月29日05時00分)から。

(時時刻刻地震原発止めず大丈夫? 川内停止要望、約5000件

 熊本県などでの地震が続くなか、九州電力川内原発(鹿児島県)は「安全性に問題ない」と運転を続けている。気象庁は今後も強い揺れに警戒するよう呼びかけているが、原子力規制委員会は運転に「お墨付き」を与える。活断層が動くことによる地震はわからないことが多い。想定外の事態が起きた時、原発は大丈夫なのか。


 川内原発は全国で唯一、稼働中の原発で、熊本地震を経ても変わらない。九州電力の瓜生道明社長は5年ぶりの黒字決算を発表した28日の会見でこう語った。

 「原子力は国の基本計画でも必要なエネルギー。安全を確認し、問題ないと判断して運転している」

 16日未明のマグニチュード(M)7・3の本震時、川内原発で観測した揺れは最大で8・6ガル(ガルは揺れの勢いを示す加速度の単位)。緊急停止させる設定値(160ガル)を下回った。それでも「想定外」に備え停止を求める声が広がった。九電には15日からの1週間に、停止の要望がメールや電話などで約5千件寄せられた。

 九電の予想では今夏に2013年並みの猛暑になっても、電力需要に対する供給の余力(予備率)は14・1%。川内原発の供給力を単純に引くと、最低必要とされる3%を下回るが、昨年の計画並みに他社から融通を受ければ、余力は計算上6%を超える。九電幹部も「川内が動かなくても、安定供給は当面は維持できる」と明かす。

 ではなぜ原発にこだわるのか。当面の発電コストが火力などより安く、経営面でうまみが大きいからだ。

 九電は東日本大震災前の原発依存度が全国でもトップレベルで、発電量の4割近くをまかなってきた。原発の停止で経営は悪化したが、「切り札」(幹部)の川内原発が再稼働し、月100億〜130億円ほど収支が改善した。九電の瓜生社長は会見で、次は「玄海原発の早期再稼働を目指したい」と語った。(柴田秀並)


 ■規制委「想定外、起きない」

 「我々が納得できる科学的な根拠はない。止めるべきだとの声があるから、政治家に言われたからと言って止めるつもりはない。現状はすべて想定内。今の川内原発で想定外の事故が起きるとは判断していない」

 熊本県などで一連の地震が続くなか、原子力規制委員会の田中俊一委員長は18日、川内1、2号機などの状況報告を受けた臨時委員会の後でそう語った。

 東京電力福島第一原発事故の教訓を受け、新規制基準では地震対策が強化された。原子炉建屋などの直下に活断層があると再稼働できず、北陸電力志賀1号機(石川県)や日本原子力発電敦賀2号機(福井県)は廃炉を迫られている。今回地震を起こした布田川(ふたがわ)・日奈久(ひなぐ)断層帯の活動も、川内原発の審査で、阿蘇から八代海の海底まで全長約90キロが連動してM8・1の地震が起こるケースを想定。川内原発の揺れを約150ガルと試算していた。

 原発の揺れは原子炉建屋地下の固い地盤でみる。地表では増幅され、揺れが大きくなることが多い。

 審査では未知の活断層なども想定。地表で最大1127ガルを記録したM6・1のモデル地震川内原発の直下で起きたと仮定して、原発の揺れは最大620ガルと算出された。この値が、川内で耐震設計のもととなる最大の揺れ(基準地震動)になっている。

 仮に基準地震動を上回る揺れで設備が壊れても、消防車や電源車などを使って原子炉を冷やす過酷事故対策で放射性物質の放出を食い止める、というのが規制委の論理だ。

 ただ、今回は震度7が約28時間の間隔で連続するという専門家の想定を超える事態だった。熊本県益城町では復旧作業にあたっていた電源車が転倒し、道路や鉄道は広域で寸断され、余震を恐れて屋外や車で寝泊まりする人が相次いだ。

 過酷事故対策の作業中に激震の追い打ちを受けたらどうなるのか。5〜30キロ圏の住民に指示される屋内退避は成り立つのか。27日の会見で問われた田中委員長は言い切った。「川内原発活断層はない。耐震設計もしており、そういう心配はしなくていい」「丈夫な建物や遠くに避難することになると思う。5〜30キロ圏の建物が全部だめになることは考える必要もない」(東山正宜、熊井洋美)


 ■事故恐れ止めた例も

 危険な状態がおさまるまで、原発を一時的に止めることはできないのか。

 前例はある。東日本大震災直後の2011年5月6日、当時の菅直人首相は中部電力に、浜岡原発静岡県)の停止を要請した。

 巨大地震の想定震源域の真上にあり、被災して福島のような大事故が起きれば、東海道新幹線東名高速などが断たれ、日本が壊滅的な打撃を受ける心配があったからだ。中部電内には「法的権限に基づかない要請に従う必要は無い」との反対論もあったが、政権トップの「政治決断」は受け入れるしかなかった。

 自民党政権だった1979年には、米スリーマイル島原発の事故を受け、当時の日本の規制当局である原子力安全委員会が、同タイプの関西電力大飯原発1号機(福井県)について、事故の原因となった装置に問題がないと確認できるまで停止するよう求めた。これを受け、当時の通商産業省(現経済産業省)は一時停止を求め、関電は約2カ月間の停止に応じた。

 米国でも、巨大ハリケーンなどが予測された際、緊急事態を想定して原発を停止した例がある。

 19日の衆院環境委員会。菅氏は浜岡の例を挙げて「予防的な観点から、しばらくは(川内原発を)停止するといったことを安倍総理に進言したらどうか」と規制委を所管する丸川珠代環境相に求めた。だが、丸川氏は「規制委の判断を尊重する」と答弁し、政府が責任を負うことに慎重な構えを崩さなかった。

 事故の教訓を踏まえて改正された原子炉等規制法では、「災害発生の急迫した危険」があれば規制委に停止を命じる権限はある。ただ、どんな想定が「急迫した危険」にあたるかは具体的に決まっていない。(大日向寛文、川田俊男)