映画"American Utopia" の "Burning Down the House"(1983)

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American Utopia (soundtrack)

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Speaking in Tongues

 

 David Byrne のコンサート映画 "American Utopia"(2020年)。

 そのSoundtrackからの一曲"Burning Down the House"は、Talking Heads の アルバム"Speaking in Tongues"(1983年)のオープニング曲から。 映画「アメリカン・ユートピア」は、いよいよフィナーレへと突入する。

 "Burning Down the House"は、MTVのビデオも手伝って、トーキングヘッズとしては大ヒットとなった。

Talking Heads - Burning Down the House (Official Video) - Bing video

 以下は、1983年のLetterman Showでのパフォーマンス。

Talking Heads - Burning Down the House live and Interview - Letterman 1983 (Higher Quality) - YouTube

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Talking Heads The Band & Their Music by David Gans

   "Burning Down the House"について、David Byrneは "Talking Heads The Band & Their Music"で、以下のように語っている。

Byrne: I first heard the phrase at a Parliament-Funkadelic concert. People were yelling it, like a chant. I might have misheard something else, but that's what I thought I heard. I thought, Hey, I can use that in a song. That's pretty good. It seems to me to imply letting go and giving up, tearing them up. It's kind of an old idea, that to transcend things you have to smash them---in this case, burn them up!

(omitting the rest)

(p.109 "Talking Heads" by David Gans)

(拙訳)

バーン:パーラメントファンカデリックのコンサートではじめてこのフレーズを聞いたんだ。観客がチャントのように叫んでいた。ひょっとして違うものを聞き違えたのかもしれないけれど、それがたしかに聞いたと思ったことなんだ。内心、おい、唄に使ってみたいんだけど。こいつはいいぞ。解き放つ、諦める、ずたずたに引き裂くという意味を含むと感じたから。ある意味、昔の考えだよね。物事の限界を超えて超越するには、破壊しなければならない。この場合、燃やし尽くさないといけない!

 Songfactsによると、同じく、P・ファンカデリックのコンサートの話が出てくる。

 Talking Headsのドラマーであるクリス・フランツとベースプレーヤーのティナ・ウェイマウスはファンクミュージックのファンで、NPRのインタビューで"The Roof is On Fire"の演奏前に"Burn down the house, burn down the house"と観客が連呼したことから題名の着想を得たと言っている。

 「(コンサート)会場をうならせる」("bring down the house")のイメージと重なったのだろう。個人的にこの曲をはじめて聞いたとき、この'house'は、コンサート会場の「箱」(venue)を意味していると思った。ファンクのコンサート会場で観客の連呼から着想を得たというから、俺の連想もあながち間違っているとは言えないだろう。

 唄づくりとして、曲のリズムに合うように歌詞をあてはめてつくったので、一貫性に難があり、母語話者にとっても歌詞の意味は分かりにくいようだ。

Burning Down The House by Talking Heads - Songfacts

 

 さてSongMeaningsのサイトなどを見て、面白い解釈と思ったのは、「テレビ」の箇所だけはよくわからないのだが、コンサートツアーや演奏活動と関連しているのではないかという解釈だ。

 この解釈によれば、歌詞の中の「365度」(Three hundred sixty five degrees)とは、温度とは関係がなく、365日、つまり一年中のコンサートツアーを示唆しているということになる。

 Talking Heads - Burning Down the House Lyrics | SongMeanings

 また、SongMeaningsのサイトには、心理学的な変化、古いものから新しいものへと人格がつくりかえられるときのことを言っているのではないかという解釈があり、同じように、玉ねぎの皮を剥くような角質除去のイメージではないかとのコメントもある。

 あらためてオフィシャルビデオを見てみると、人と人との顔が合わさってコラージュされる演出があり、これが人格の変化という解釈に合っているのではないかというコメントがあった。

Talking Heads - Burning Down the House (Official Video) - Bing video

   

 さて、映画"American Utopia"では、'house'(建物としての家) と 'home'(家庭)がキーワードのようにたくさん登場する。

 たとえば”Everybody's Coming to My House"で歌われるテーマも、移民にとってアメリカ合州国という'house'は'home'になりえるのかというのが、アメリカンユートピアの重要なテーマのひとつというのが俺の解釈だ。

 ショーの冒頭でも観客に向かって'home'からわざわざ会場に来てもらって感謝しますというようなことをバーンが言っていたと記憶しているが、ショー全体において、'house'と'home'の扱いは重層的である。

 見てきたように、"Burning Down the House"の'house'は、オリジナルでは「会場」(venue)のイメージ、ツアーのイメージがあるのだが、「アメリカンユートピア」のショーにおいては、深刻な課題を抱えるアメリカ合州国という'house'(入れ物)を、壊して作り直すというニュアンスが感じられてならない。

 

 これは、作り変えるために破壊する、破壊して作り変えるという"Talking Heads The Band & Their Music"でのバーンのインタビューとも矛盾せず合致している。

  "Burning Down the House"のテーマが、アメリカ合州国という'house'(入れ物)を壊して作り直すというテーマではないかという解釈は、踏み込み過ぎだろうか。

 マーチンバンドのリズムセクションもさらに盛り上がり、パフォーマンスは全開。

 ”Hell You Talmbout"へと突入する。

 

Ah
Watch out, you might get what you're after
Cool, babies! Strange but not a stranger 

I'm an ordinary guy 

Burning down the house

Hold tight, wait 'til the party's over
Hold tight, we're in for nasty weather
There has got to be a way
Burning down the house

Here's your ticket, pack your bag, it's time for jumping overboard
The transportation is here
Close enough but not too far, maybe you know where you are
Fighting fire with fire, ah!

All wet, here, you might need a raincoat
Shakedown*1, dreams walking in broad daylight

Three hundred sixty-five degrees
Burning down the house

It was once upon a place, sometimes I listen to myself
Gonna come in first place
People on their way to work say, “Baby, what did you expect?”

Gonna burst into flame, ah!
Burning down the house


My house is out of the ordinary
That’s right, don't wanna hurt nobody
Some things sure can sweep me off my feet*2
Burning down the house

 

No visible means of support and you have not seen nothing yet

Eerything's stuck together

I don't know what you expect staring into the TV set

Fighting fire with fire, ah!
(拙訳)

気をつけろ ひょっとして追いかけているものが手にはいるかもしれない

かっこいいね 奇妙だが でも見知らぬわけでもない

俺はふつうのおとこ

家(会場)を燃やし尽くして

 

しっかりとしがみつけ パーティーが終わるまで待て

しっかりとしがみつけ ひどい天候になりそうだ

なんとか逃げ道があるはず

家(会場)を燃やし尽くして


さぁチケットだ 荷造りをしろ

(海に)飛び込む時間だ

移動手段はここにある

十分近いが、それほど遠くはない

自分のいるところはわかるだろ

火で火を戦え

もうびっしょり レインコートが必要かもしれない

間に合わせの寝床 白日の下で歩く夢

365度

家(会場)を燃やし尽くして

ある場所でのことだった ときに自分に耳を傾ける

いちばん最初に来るだろう

仕事に出かける人々が言う 「ねぇ君、何を期待したの」

あっという間に炎に包まれるだろう

家(会場)を燃やし尽くして

 

俺の家は普通じゃない

そのとおり 誰も傷つけたくはない

俺には足下をさらわれるように夢中にさせられるものがある
家(会場)を燃やし尽くして

 

眼に見える支援の手段もなく 君も何も見えず

すべてがくっついていて離れない
おまえがテレビをのぞき込んで何を期待しているのか俺にはわからない

火で火を戦え

*1:この'shakedown'がよくわからない。shakedownには、もともとの揺らすから転移して「ゆすり」など多義性があるが、ここではあえて床につくった出来合いのベッドの意味を採用して訳してみた。

*2:'sweep someone off one's feet"はイディオムで、「足をさらう」「ひっくり返す」から「熱中させる」「たちまち熱中にさせる」という意。