インチキ電気屋にはめられた

 そのまま立ち去れるだろうと思っていた。問題ないと思った。すると、その若い男はえらい剣幕で怒りだし、態度も急にガラリと変えた。何が気に入らないんだ、俺はわざわざ箱からこのテレビを出した、テレビの電源も入れた。また来るでは済まぬというようなことを言い始めた。一瞬、その男の豹変ぶりにひるんだが、映りはよくないし、高いと思うからいらないと私が反論すると、その男は、何を言っているんだと言わんばかりの顔をした。再度負けてなるかと畳みかけるように私が反論すると、一層嫌そうな顔をして、バカなことを言うんじゃないという顔をしながら店の向こうの主人の方に相談しに行った。あの客がまけろというんだが、どうするといった2人の表情だ。そのとき、安くするなら買ってもいいと思った。いや、向こうの思うつぼで交渉に入ってしまったのだから、値段をかなり下げてくれば買わなくてはならないと思った。主人との相談から戻ると、その若い男は95ドルだと言った。
 大体80ドルくらいと踏んでいた私が相棒と相談するはめになってしまった。若い男の剣幕もあるが、交渉にはいってしまったという状況認識が私に妥協をうながした。少々高いと思ったが買うことにして、「クレジットカードで大丈夫か」と尋ねると、鼻の大きな背の高いもみあげの男が、No problem.と言った。ただし、身分証明書を見せるようにと言うので、パスポートを見せて、サインしようとすると、相棒が「おかしいんじゃない」と言うのに、私はパートナーの言うことを遮り、サインを済ませ、通りに出た。値段違っているんじゃないのとまた相棒が言うので、コピーを再び見ると、なんと159ドル88セントと書いてある。どこでどう見間違えたのか。なんで95ドルのテレビが159ドルになるんだと店に戻った。