カンタベリー大学を初めて訪問する

 カンタベリー大学はアイラム(Ilam)にある。インフォメーションセンターで市内(メトロ)バス案内図をもらって聞いていたのだが、初めてのところで慣れていない私たちがバスに乗るのは少し面倒である。タクシーを使ってカンタベリー大学に行くことにする。「カンタベリー大学の中のどこにつけたらいい」と、運転手に聞かれたので、アドミッションオフィスをお願いする。カンタベリー大学まで17ドルで、1190円。
 クライストチャーチ市内にあったカンタベリー大学の跡地は、すでに市内観光でまわったアートセンターにあたる。植物園や博物館の近くにあり、歴史を感じることのできるビクトリア調の雰囲気のいい建物であった。郊外のアイラムに移り、その引越しが完成したのが1976年というので、引越し先のカンタベリー大学への私の期待度はかなり高かった。けれども、一見した大学の外見はそれほどでもなく、日本の大学にあるような機能だけの建物のような印象を受けた。訪問前の私の期待が高すぎたのかもしれない。
 カンタベリー大学内はなかなか広いので、地図を入手して、まず女性学の学部・学科がどこにあるのか聞いてみる。女性学は娘が関心のあるテーマである。建物を探していると、学生が地面にチョークで宣伝内容を書いている。チョークで書くというのは、環境を守る点で、よいアイデアでかもしれない。書いている内容は、自治会長の選挙で誰に投票すべきとか、学生団体による催し物の宣伝のようだ。女性学の学部・学科に行ったが、担当教授がいないようなので、講義内容やシラバスのブックレットを事務担当の方にいただいた。
 私は一応、英語の教師をしているので、自分の学ぶものといえば、TESOL(Teachintg English as Second Language)である。第二言語として英語をいかに教えるのかということになるのだが、このTESOLの学部・学科もあるか尋ねて、地図をいただき教えてもらった方角に向かうが、構内が広すぎるのと地図の縮尺があまり正確でないらしく、わからない。要領をえないので、数学科の建物の中で女性秘書に聞いてみる。それでもわからなかったが、数学科の教授とおぼしき人物に聞いてみると親切に応対してくれた。女性秘書があちこち電話してくれてわかった結論は、その建物は、新しく建てた仮の、言ってみればプレハブのような建物だったようで、私が持っている地図には記載されていないとのことだった。今いる数学科の建物からは近いらしく、「近からずとも遠からず。いい線だったわ」と言われたが、ようやくその建物にたどり着いてわかったことは、そのプログラムはTESOLではなく、英語力が足りない留学生ための英語集中講座プログラムであった。これなら、ずっと昔、サンフランシスコのUC Berkeleyで受けたことがある。結局TESOLはないということなので、丁寧に礼を言って、その場を去った。
 実はTESOLがないという情報はすでにカンタベリー大学のホームページで確認済みではあったのだが、実際に大学関係者に聞いてみないとわからないこともある。いずれにしても、カンタベリー大学で学ぶことはないだろうという結論を私はもったが、カンタベリー大学は、若者が最初の留学先として選ぶには結構よい選択ではないだろうか。構内は思ったより雑然としていて景観として美しい大学とはお世辞にも言えないが、クライストチャーチという街は友好的な人たちが多く気持ちよく過ごせる街だ。クライストチャーチが好きなら、カンタベリー大学の選択でなんら問題はない。
 授業が終わったようで、学生たちがたくさん外に出てきた。そろそろ市内に帰ることにしよう。大学構内が広いので、バス停が、大学構内のバス用なのか、市のバス用なのか、よくわからない。本屋で市内行きのバス停の場所を聞いても、要領をえない。観光案内所でもらった市バスの運行時間表をみると、市内に行くバスの時間が迫っている。たまたま走っている若者がいたので、彼もバスに乗るのかと思って聞いてみたが、彼はバス目当てで走っているのではなかった。表通りで、一人の女性に聞いてみると、「私も行くところなんだけど、あのバス停よ。ちょうどいま来たバスが市内に行くわ」と教えてくれたので、数名が待っているバス停に走り込んだ。
 ダウンタウンに戻るバス代は、2ドル。20分ほどでダウンタウンに戻れる。2時間以内なら、1回乗り換えもできるらしい。学生の乗客が降りる際の運転手との交流がなんともいい。乗客が必ず運転手に礼を言うのだ。運転手も、きちんとそれに応える。たまたま挨拶をしているのではなく、いつもの日常的な習慣であることが見てわかる。それほど挨拶の仕方が自然だ。クライストチャーチではバスの運転手も楽しく仕事をしている印象がある。初めての外国旅行で、クライストチャーチで学生生活を送ることができるなら、それは幸運というべきものだろう。私はクライストチャーチの良さを再度納得した。