クライストチャーチ郊外のアカロアツアー

アカロアツアー

 まだクライストチャーチに滞在しているので、いま泊まっているタレットハウス(Turret House)に延泊してもよかったが、気分転換に宿を変えることにしていた。朝食を済ませて、部屋の片付けと荷造りをする。
 クライストチャーチから少し遠出をして、今日はアカロア(Akaroa)に行く予定である。バスを予約してあり、観光案内所近くのインターネットカフェ前でバスに乗ることになっている。タレットハウス(Turret House)をチェックアウトし、荷物をころがしながら、ダウンタウン中心へ歩いていく。例のインターネットカフェに荷物を預けて、指定の時間にバスを待つ。こちらのバスツアーは、客の泊まり宿にバスがまわってくれるらしい。われわれは市内中心までわざわざ歩いたが、案外、臨機応変がきくようだ。
 お目当てのバスが来て、乗り込んできたツアー客は、結局、オークランドからの老夫婦と我が家の3人で、都合5人の客である。運転手はマイクロフォンを口の前にセットし、ガイドをしながら運転していく。クライストチャーチからアカロアにかけての地形は、火山がつくったクレイターの地形のようである。実際、アカロアのあるバンクス半島と呼ばれる地域は、三つの火山の噴火によってつくられたという。キャプテンクックがアカロア湾を発見したとされる1770年代以前からマオリのタフ族がアカロアを知っていたのだが、このアカロアはその後フランス人が殖民してつくった街として有名で、現在の人口は650人〜700人の本当に小さな街である。クライストチャーチからは85キロほど離れているが、クライストチャーチからの小旅行として人気が高い。
 Sign of Takaheやリトルトンの説明をしながらバスは進んでいく。なんだ、昨日インディジットにガイドをしてもらいながら行った道と重複しているじゃないのという感じで、すでに私たちが予習済みのコースをバスは走っていく。
 アカロアの町に至る道の最終段階は、くねくねと曲がった坂道を登りきって、そして下らないといけない。頂上のヒルトップ(Hilltop)で小休止。アカロア湾(Akaroa Harbour)を見下ろすヒルトップからの景観はなかなかのものである。チーズ工場があるというので立ち寄る。実際にチーズを作っているところを見学できて、チーズやワインが買える。
 眺望のいいヒルトップを一挙に下ってアカロアに着くと、アカロア湾に沿って波止場とメインストリートがある。アカロアは想像したように小さな町だが、バスの運転手が、あれ、意外だというような声を出した。あるべきクルーズ船が波止場にいないらしい。すでに述べたように、このアカロアツアーにはオプションがあり、クルージングか乗馬かと選択を聞かれ私たちはクルージングという選択をしていたのだが、今回のツアー客は全員クルージングを選んだようで、それならクルーズ船がいなければ、ちょっと大変なことになる。まぁなんとかなるでしょうと、レストラン前に集合する時間を決めて、それまでは自由時間となった。
 自由時間を使って、私たちはアカロア博物館に寄って、アカロアの歴史を学ぶことにした。博物館には、遠足の児童も来ているようだった。博物館から出ると、通りにはRue Lavaudと書いてある。Rueとはフランス語でRoadの意味であろうか。通りの名前にフランス語の影響がみられるようだ。波止場沿いにみやげ物屋が立ち並んでいるので、少し見てまわる。みやげ物屋の前で鳥に餌をやっている男がいる。
 約束の時間になったので、待ち合わせ場所に行くと、私たちをすでに待っていたようで、シドニーからの夫婦と運転手がすでにレストラン前で座っていた。私たちが昼食を楽しんでいる間、彼は携帯電話で、クルーズ船の問い合わせをしている。どうしたものかといいながら終始冷静である。私たち以外のシドニーから来た夫妻も、ボートクルージングがダメだったら、とくにこれを絶対にしたいという風ではなかったので、ワインティスティングや展望のいいルートで景色を楽しみながら帰ることにしようということになった。結局、強風のため、ボートクルージングはキャンセルとなり、この分の代金30ドルは返金になるとの説明があった。
 食事をしながらこの運転手と話をすると、彼は日本の広島に英語を教えに来たことがあるとのことだった。このアカロアには、世界で最も小さいイルカがいて、ボートから観察したり、一緒に泳いだりもできるという。せっかくアカロアまで来たというのに、今日のように風が強い日でとても残念だ。明日はカイコウラに行く仕事が入っているという。カイコウラは鯨観察(ホェールウォッチング)で有名な場所だが、まだ行ったことがなければ是非訪れるべきだと強調した。カイコウラにもイルカと一緒に泳ぐツアーがあるという。
 今回の旅では日程的に無理だが、私もいつかカイコウラに行ってみたいと思っていた。南島のカイコウラは、北島のロトルアと同様、マオリによって運営されている性格の強い観光地だといわれている。カイコウラでは暖流と寒流の海流がぶつかり合うことから海中の栄養素が上昇する場所と言われ、プランクトンや魚が集まる場所になっている。いわゆる食物連鎖から、その上位に位置する鯨にとって、カイコウラはいわば高級レストラン状態なのである。したがって、鯨が集まりやすく、人間にとってマッコウ鯨の観察しやすい場所になっているというわけだ。こうして今や一大観光名所になっている場所なのだが、Kaikouraとは、マオリ語で、kai(to eat); koura(crayfish)であり、To eat crayfish(「伊勢海老を食べる」)という意味なのである。実際カイコウラでは伊勢海老が名物らしい。こうしてカイコウラは「伊勢海老を食べた場所」ということになるわけだが、これはカイコウラという地域に限られた話ではなく、その昔、自然が豊かなニュージーランド南島全体に合致した名前だったとの記述が例の地名の本にある。
 行きは、バリス湾(Barrys Bay)の方からアカロア湾をなめるように湾岸沿いの道を来たのだが、帰りは高度をかせぎながら、頂上通り(Summit Road)と呼ばれる高台の道を進む。高いところからアカロア湾をながめる景観はなかなかである。
 ボートクルージングがキャンセルになったせいか、早めにクライストチャーチに戻った。同行した夫婦の宿の前にバスは止まり、次に私たちのバックパッカーモーテルに寄ってくれるとのことだったが、散策したかったので市内で下ろしてもらった。時計をみるとまだ銀行のやっている時間である。連れ合いのカードを取り戻しに昨日の銀行にいくことにした。銀行で、カードは無事返却となった。何故カードが機械に取り込まれて保管されてしまったのか、その理由を尋ねると、はっきりとしたことはわからないと若い女性の銀行員は答えた。まぁカードが返ってくれば問題はない。