バスはやめてタクシーに乗ることにした

 すると突然、色の黒い精悍な青年が私の前にあらわれ、空港まで行くのかと私に聞く。いい同乗者があらわれたと思い、いろいろと話をすると、実はタクシーの運転手で、「バス代がいくらかかるかわからないが、安くしてあげるから乗らないか」と言う。「バス代は13ドルなんだけど」と言うと、「それならタクシー代10ドルでどうだ」と言うので、了解する。一瞬、この変な酔っ払いとグルで、身包みはがれることもあるかなと思ったが、この精悍な青年、映画スターのような風貌であるし、信頼できそうだった。
 青年のタクシーはきれいなコンパクトカーで、運転もスピーディー。東京の渋滞のような状況の道を、流れるように空港に向かう。彼はインドから来たインド人で、ニュージーランドに来て2年、タクシーの仕事を始めて3ヶ月という青年であった。空港近くに住んでいて、今日は仕事をやめにして帰ろうと思っていたところなので、空港に行く客がいればディスカウントでも乗せたほうがいいという判断でバス停に寄ったとのことだった。彼によれば、オークランドの景気は、あまりよくないらしい。
 多少金持ちの日本人にとっては、英語を学んだり、旅行のゲートウェイというところになるけれど、オークランドは、インドやパキスタンからみれば、一大出稼ぎ都市なのだろう。私がサバティカルで一年間休みを取って大学に行くつもりであることや、その他いろいろと話をしたが、なんだか、「経済格差」を感じて話がはずまなくなってしまった。大体、なんで、そんな幸運な日本人が、バスなんか待っていて、酔っ払いにからまれているんだという印象なのかもしれない。10ドルでいいと相手に言われたところ、もともと私はバス代と同じ13ドル払ってやるつもりであった。タクシー代のメーターは50ドルを示していたので、結局わたしは15ドル彼に払ってやった。