誰がニュージーランド人かということ自体がまず問題になるのだけれど、また「イギリス系」と言っても実はむずかしいのだが、これまで紹介したアレックスとジュディ宅の文化の意味で「イギリス系」の家庭の食事の印象を簡単に触れておこう。彼らはイギリス系*1というより、キーウィ(Kiwi)系だと言うのに違いないが。
まず、朝食。
ハミルトンの今の時期は冬で、朝は霜が降りている。目覚まし時計を使っていないこともあるけれど、私の目覚めは遅く、8時くらいだ。8時30分頃にだらだらと起きてリビングに向かい、アレックスとジュディに朝の挨拶をする。
洗面を済ませると、朝食の雰囲気になる。不思議なことに、いまだシリアルやミューズリーに出会っていない。ジュディに聞くと、シリアルやミューズリーが嫌いなわけではないが、気分がすすむときに食べるという。ジュディが、テーブルにテーブルクロスを敷き、板のプレイス・プレートが置かれ、その上にお皿が置かれる。フォークとナイフは常に必需品である。そしてナプキン置きとナプキン。
すると、トースト立てにトーストが何枚か挟まって出てくる。焼きあがったトーストを取り、ナイフで、まずマーガリンを塗る。マーガリンのことは短くマージとも呼ぶ。前にも書いたが、マーガリンを塗らない食べ方は彼らからすると想像を絶するらしい。おそらくトーストにしてもサンドイッチにしても、パサパサのパンを食べるということが信じられないのだろう。ニュージーランド人の前では、マーガリンかバターを必ず塗るようにしよう。あとは、日本にもある一枚一枚になったチーズや、マーマイトや、マヌーカ蜂蜜*2やピーナッツバターなど、食卓にたくさんのビンが置かれているので、自分の好みのものをトーストのマーガリンの上に塗ってできあがり。
マーマイトはイギリスやオセアニアに詳しい人にはお馴染みだが、イースト菌でつくる酵母エキス健康商品。見かけは、チョコレートバターだが、味は私に言わせれば味噌味風。人によっては、こんなもの食えるかという味であるが、彼らはこのマーマイトをこよなく愛する。言ってみれば食品群の中でその位置は納豆のようなもので、これをこよなく愛するようになれば、こちらの生活に馴染んだといえるほどの食品である。あとは、ミルクを入れた紅茶を飲みながらいただく。
アレックスとジュディの家で、おそらく特徴的なのは、アボカドが毎朝出てくることだろう。種がそのまま入った半分に切られたアボカドをナイフで切り取って、やはりトーストのマーガリンの上に塗りたくる。その上に、塩やコショーをかなり降りかけて食べるのが彼らの好みのようだ。アボガドは1個の値段が1ドル以上もする。大体、朝の話題は、まずこのアボカド一個の値段が話題として出される。アボカドは買ってきたばかりのときはペーストするのに苦労するほどの固さがある。だから、アボカドは塗りやすく柔らかくなるまでしばらく置いておく。アボカドの食べごろ、この見分け方が、ちょいとむずかしい。
こうしたトーストを、一人当たり、二枚か三枚ほど食べる。先に親戚が集まった際に、「朝は、いつもは二枚のトーストなのに、今日は三枚だ」とジェフが言っていたので、質も量も違うけれど、我々の「今日は食欲があり、ご飯を茶碗で二杯食べた」というのとおそらく変わらないのであろう。私の好みは、マーガリンとマーマイト、これはなかなか苦味があっていい。その上にアボカドを塗ると、ちょっと深みのある味わいと爽やかさがあって、さらにおいしくなる。ジュディはさらに塩をふりかけるが、私の場合、これはパスして、塩はかけない。
食べ終わると、席を立ち、食器やカップをシンクに入れて、お湯を入れ、洗剤を入れて洗って、それを拭いておしまい。テーブルクロスは、パンくずが落ちないように、四つの角をもち、そのまま外に持って行き、芝生の上でパタパタと落として、鳥の餌にする。余ったトーストも、そのまま庭にポイと捨てて、鳥の餌にする。皿の下に敷くプレイス・プレート板は所定の場所に入れ、ナプキンも所定の場所に入れておしまい。朝食にはこうした定型(routine work)というか、儀式がある。
夕食も同様で、夕食はまずスープから始まることが多い。鶏肉のブロスというのか、少しヌードルが入った薄い塩味のスープがよく出る。スープは、英語で"drink soup"とは言わず、"eat soup"というのだが、スープを「食べる」ならば、彼らが嫌がる「ズルズルと音を立てて食べる」(slurp)ことはない。それで、ここが肝心なのだが、スープ皿はすぐ片づけられてしまう。私が話に夢中になって食べ終わるのが遅いと、かなりタイミングが悪いようだ。食べ終わったらスープ皿はすぐ片づけるというのがジュディの流儀のようである。
そして、メインディッシュだが、チキン一羽まるごと、あるいは、ビーフシチュー、あるいはランプステーキと、日によって違うが、肉料理が基本に出てくる。
そして、それに必ず野菜がついてくる。出し方は、野菜別に中皿が三つくらい出てきて、それを好きなだけ自分の皿に取るというやり方だ。だから、プレート板の上の暖かい料理皿を交互にまわすことになる。今日は、ブロッコリのゆでた奴と、葱の塩茹でにホワイトソースが添えられている奴、それにウェッジズといって、ポテトをちょっとスパイシーにした奴が出てきた。ウェッジズの作り方を見ていると、鉄の平たいパンにスプレー油をひいて、切ったポテトをざくざくと置いて、またスプレー油をかける。その上に、インスタントのケイジャンスパイスを降りかけて、200度くらいで焼いて様子をみるだけ。作り方は、きわめてシンプルだ*3。
アレックスが最初から強調していたのだが、ダイニングルームからお腹を空かせて出て行くのは、その人の責任だと何度も言われた。つまり、責任をもって、好きなだけきちんと食べろということである。ただ、三人で取り分けるのだから、取る量を少し遠慮してしまうことがある。そして、あとから、彼らにすすめられて、追加でジャガイモだの、豆だのを、私が取って食べる。けれども、こういう食べ方は、最後に野菜だけを食べたりすることになるから、食べ方としては、タイミングが悪いようだ。最初から自分の食べたいだけの量をきっちり、それもたっぷりと多く取るのが、こちらの流儀のようである。
「デザートは欲しい」と聞かれて、デザートが出てくることもある。昨晩のデザートは、トマトの木になる果実で、トマトというよりも、深い味わいのする甘酸っぱい真っ赤な果物である。これをアイスクリームと一緒に食べる。このトマトの木も、前にアレックスに庭で見せてもらっていたものだ。この家のように、ブロッコリやトマトの木など、家庭菜園があると便利で豊かだ。アレックスにいただいていたオレンジも今日食べたが、とても甘かった。これを私はコーンポストの近くで食べたのだが、残った皮をコーンポストに入れられる生活はなかなかいい。
昼食は、サンドイッチが主だが、ジュディが作ってくれるサンドイッチをまだ私は食べていない。どちらかといえば、大学でのカフェやシティセンターでの中華料理が私の好みである。こうして、ニュージーランドの生活での食べ物に関しては、全く問題がない。
大学や、シティセンターのインターネットカフェにいると、時間があっという間にたってしまうので、バスに乗ってあわててホームステイ先に帰宅するのだが、夕方にはかなりお腹がすくので、夕食が楽しみな毎日なのである。