実際のCALLプログラムが始まった

 どうやって、授業が組み立てられるのかと思って、入学手続き後にCALLの担当教授の個室を訪ずれると、教授と秘書から要綱をすでに自宅に郵送したと言われた。
 自宅に戻って、自宅に送られてきたその要綱を読んでみると、「クラスフォーラム」というURLがあり、そこに、ユーザーアカウントとパスワードを入力して入れと指示がある。フォルダがいくつかあって、課題として、まず自分の情報を入力するプレファレンスが設定されている。自分の写真も登録するようになっていて、学生証をつくるときに撮影された写真でよければデフォルトでそれが使えるが、自分のものを使いたい場合は、データ容量や条件が書かれていた。
 多少の茶目っ気から、自分の子どものときの写真でも使ってやろうかと思ったのだが、次の箇所を読むと、ペットや漫画などの写真はダメだと書いてある。それならばと、黒いサングラスをかけた自分の写真をデジカメから取り込んで掲載しようと、それまであまりやったことのない画像処理に挑戦してみた。
 モザイクをかけたり、ソフトなタッチにしてみたり、いろいろと加工してみたが、誰の写真か全く判別できなくなってしまったので、これじゃさすがに担当教授が怒るだろうと思って写真の加工は断念した。
 画像を加工している途中で、データ容量は10MBまで落とせたのだが、縦と横の縮小がうまくいかない。私がコンピュータに詳しくないから仕方がないのだが、この辺がコンピュータの融通がきかないところだ。私が原因なのだが、とりあえず今回うまくいかなかったのは、コンピュータのせいにしておこう。
 なかなかいい写真なのに惜しいけれど、諦めて、デフォルトである学生証の写真に設定した。学生証の写真をあらためて見てみたら、これも多少暗いサングラスをかけているので、判読不可能とはいえないが、微妙にわからないので、これでよしとした。
 お気づきのように、ふざけた気持ちも多少はあるけれど、それよりも何よりも個人データの扱いに私はうるさくありたいのだ。はっきりいえば、写真を掲載しろという指示が気に入らない。その人にふさわしいものなら、何かのシンボルでもいいだろうに。ペットだって漫画だって自己表現である。いつも同じ写真を使うのであれば、誰による記述なのか、全く問題なく他人は理解できるだろう。その人だと確認するのに、ペットでも、漫画でも、どうしていけないのだろう。昔のパソコン通信ならハンドルネームということになるのだろうが、しょせん、インターネットの世界なんて、クリフォード=ストールの「インターネットは空っぽの世界」ではないけれど、心もとないと私は思っているのだ。
 自己紹介と、他人の自己紹介に対する質問が課題になっていて、いつまでに行えと指示がある。私も遅ればせながら、自己紹介を掲載する。他人の自己紹介文をながめていると、応用言語学のクラスで見かけたことのある中国人女性がいたので、彼女に対して「ハミルトンの中華料理店に行ったことがあるか」「いい店があったら紹介して下さい」という質問を書いておいた。彼女から丁寧な返事が後日あったけど、私の中華料理の質問には残念ながら回答がなかった。教室の隣に座っていたら、おそらく彼女に答えてもらうことができたのではないかと思うと、とても残念だ。この辺もe-learning*1の融通のきかないところだろう。
 フォーラムでは、写真つきのメッセージが掲示板として載るので、確かに雰囲気はでる。自己紹介をながめていると、日本で英語を教えたこともある白人男性の自己紹介があった。彼は、私が教室で会った中国人女性に、「どこからアクセスしているのですか、中国、それともワイカト大学」と聞いていた。教室授業ならこんな馬鹿げたことはありえない。彼女がワイカト大学で学んでいるインターナショナルスチューデントであることをたまたま私は知っているが、彼は直接会ったことがないからわからないのだ。他に、教員歴のない別の中国人女性。それと、白人女性が2人。忙しいので、これらのメッセージは精読しなかったが、担当教員はしっかりと読んでいることだろう。
 私とのやりとりでわかったのだが、このCALLを担当している教員キャサリン(仮名)も、日本で4年間英語を教えたことがあるという。私も自己紹介のやりとりの中で、結構長い紹介を書くことにした。教室授業においても、集中しないで白昼夢の学生もいるだろう。それでも、e-learningは、情報の共有性という点では、教室授業にかなわないのではないか。
 一週間目のテーマは、本コースの概論であり、私自身なんとかついていくことができた。二週間目のテーマは、ようやく内容に入り、CALL概論、つまりCALLとは何かがテーマである。
 最初はよくわからなかったが、要するに、週ごとに課題文献をダウンロードして読んで、その要約作成と意見・質問を掲載し、それを受講生みんなで読んで批評し合い、議論するということらしい。課題の提出期限は厳しく設定されている。当然だろう。共時的に時間を共有する教室授業と違って、生徒の課題提出が遅ければ、授業を組織化できない。
 担当教授に直接会った際に、システムは、「straightforward(「単刀直入です」)」と私に説明してくれたが、私には、それほど単刀直入とは思えなかった。要綱をよく読まなかった私が悪いのだが、サイトを管理運営している人間にとっては、単刀直入(straightforward)であっても、生徒にとっては、そうでもないことはざらにあるだろう。教室授業だって同じだが、コンピュータは、一人だけ、迷い子になることだって少なくない。もちろん、サイト上で、いろいろな配慮がされていることも確かだけれど。
 サイトそれ自体は、私自身あちこち探訪してみて、普通によくできているとは思うが、基本的にこうしたコンピュータの使い方に、私はあまり感心しない。例えば、課題文献の配布なら、何故教室に生徒を集めてやらないのか。自己紹介だって、同じく、何故教室に生徒を集めてやらないのかと、思ってしまうのだ。その方がよほど人間的だし、電気代もかからない。
 もちろん、日本からインターネット経由でアクセスするなら話は別だ。
 なんだか悪口ばかり書いてきたけれど、これからはe-learningが日本でも少しずつ導入されていくのだろう。だから、私自身が、生徒として、e-learningを体験しながら、CALLについて考えることは無駄ではないとは思っている。

*1:e-learningのe-は、e-mailと同様に、electricの意。インターネットなどを通じて、インターネット大学など、遠隔地教育がおこなえる。