ワイカト大学に中国人留学生が多い理由

 さて、以上の例からもわかるように、ワイカト大学(The University of Waikato)にはやたらと中国人留学生が多い。中国人留学生のために、この田舎の大学はあるのではないかと思えるほど、中国人が多いのだ。
 先日の応用言語学の授業でも、教授が言っていたことは、1999年以前には、中国人留学生など、ほとんどいなかったらしい。1999年以降、爆発的に増えたというのだ。そのおかげで、中国人の発想の仕方、イギリス語を話す際にどういう点に弱点があるか、言語学的な問題がよくわかるようになったと言っていた。
 この教授は前にも紹介したように、イギリスで学位を取り、イタリアでの滞在生活が長く、少しお酒が入ればイタリア語がよく出てくると自分で言っていたが、三ヶ月ほど東京のある女子大学で教鞭を取ったこともあるので、日本語は話せなくても日本通でもある。その教授が、ワイカト大学に来ている日本人を「平均」と思ってはいけないと教室で喝破していた。冗談めいての発言だから許せるけれども、ワイカト大学に来ている日本人学生は、「勇敢」なのか、その逆に「変な奴」なのか、いずれかだと続けて発言した。ワイカト大学(The University of Waikato)に来ている日本人学生には私も含まれるので、反論の余地は全くないのだけれど。
 正直いって、ニュージーランドの中での世間的なランクなら、オークランド大学、カンタベリー大学、ビクトリア大学、オタゴ大学ときて、ようやくワイカト大学(The University of Waikato)という順番ではないだろうか。ワイカトといえば、日本人ばかりでなく、オーストラリア人やニュージーランド人から見ても、「なぜワイカトなの」というのがごくごく一般的な考え方だろう。
 それなら、何故、1999年以降、中国人留学生が増えたのだろうか。
 このことを中国人留学生の一人であるケンに聞いてみたら、彼の答えは以下の通りだった。
 ケンは、現在、ワイカト大学二年生の工学専攻の学生で、まだ学生生活を少し残しているけれど、ニュージーランドで少し仕事の経験をしてから中国に帰る予定だという。
 彼の生まれ故郷は、上海に近く、南京がさらにまた近くの、AnHui省の省都であるHefei市という所だそうだ。中国には665もの同規模、またはさらに大きな市があるから、私がこの街を知らなくても当然だと、彼は書いてよこしてきた。
 中国では1978年に始まった出産制限政策のため、80年代に生まれた子どもたちは、たいてい一人っ子だという。彼も、この「一人っ子政策」の影響があって、一人っ子だそうだ。いきおい、各家庭では、少ない子どもに対する教育熱が上がる。
 今後、経済をさらに拡大するには、どんな人間が望まれるのか。いろいろな考え方があるけれども、ひとつには、発達した国々から学ぶのが最善であるという考え方がある。外国に子どもを送って、職業技術を磨かせるというわけだ。それで、2000年頃の行き先としての候補地は、安全で、移民できる可能性が高いということで、ニュージーランドが一つの最善の選択肢だったようだ。だから、これまでの中国の歴史の中で、現在は、「外国留学の嵐」的状態を迎えているのだという。たくさんの中国人留学生がいるというのには、こうした背景があるのだ。
 それともう一つつけ加えるなら、中国の経済状況がいいということがある。数年前なら、普通の家庭で、留学など無理だったが、生活状態も向上し、金銭的にも増収になっているので、外国留学をさせられるというわけだ。
 さらに理由があるとすれば、ケンの意見では、中国には、いい大学がないということがあるのではないかとつけ加えた。彼によれば、中国で一番いいとされている大学が世界で73番目だというのだ。
 以上のことは、彼のメールで教えてもらったのだが、今度、お茶か飯でも一緒にしようということになった。私自身はすでに若者ではないけれど、私がオセアニアを選んだ理由の一つには、これからの日本の若者は、アジアを考えないといけないと思ったからだ。好青年のケンの話から私は、いろいろと学ぶことが多かった。