実際に中古車ディーラーに行ってみた

 ということで、土曜日の朝にトムが来て、一緒にまわってくれることになった。
 奥さんのジョニとも相談したらしく、8000ドルくらいの奴だといい状態の車が手に入るけれど、来年の3月には私が売ることになるので、ディーラーを通すと、車の価値が半分くらい下がった値段になってしまうから、かなりのお金を私が損することになるという。
 5000ドルから6000ドルくらいの奴なら、充分走れるし、売るときも問題なく売れるから、比較の話になるが、失うお金が少なくてすむというのが彼らのアドバイスらしい。
 それにあまり目立つスポーツカーに乗っていると、若い奴が、「いい車だね、乗せて」ということになるし、最悪の場合、悪い奴にパーツを持っていかれてしまうこともある。
 だから、高い車でなくてよいのではないかというのが彼らの結論的な考え方のようだ。もちろん、「最後は自分が決めることだけど」と付け加えるのを忘れなかった。
 つまり、車選びに、彼らなりの「好み」はもちろんあるのだけれど、なんというのか、日本的な「見栄」や「格好」は入る余地が一切ないということだ。それは金をドブに捨てるようなものという発想が彼らの根底にある。
 例えば、「トヨタはどうなの」と私がトムに聞いたときの、トムの反応はというと、「ニュージーランドではトヨタ系列の販売会社も少なくないけど、ニュージーランドトヨタといえば、ブランドで、同じ能力の車種でもそのブランド分だけトヨタは値段が高いというイメージがあるね」という。
 だから彼はトヨタを薦めない。やはり「必要充分」ということがニュージーランドの基本で、それ以上のカッコをつけるための「見栄」や「華美な装飾」は基本的に必要ないという発想なのだ。
 私が8000ドルくらいの車と言ったのは、テレビなどで見る価格帯を参考にして、1万ドル(約70万)以上の価格帯もあるけれど、それほど出す必要はないと思ったことと、やはり車であるから、あまり安い奴だと安全性が不安だというのがあって、最高に出して8000ドルと言ったのだけれど、こちらの考え方では、下限の幅がもっと広いようだ。
 それで、実際に彼の車で、カーディーラーをまわってみた。
 トムは昨晩わたしのためにすでにいろいろとチェックしてくれていて、この店では、これを見る、この店では、これを見ると、すでに市民ペーパーの広告に印をつけて、それに従って回ってみる方針だ。
 最初に行った中古ディーラーには、スバル(Subaru)のインプレッサ(Impreza)が二台置いてあった。一台は1800のシルバーで、一台は1600の黒だ。インプレッサのラゲッジルームを見ると、高級感があり、後部座席を倒せば、自転車も充分入りそうだ。さっそく試乗させてもらうことにする。試乗のためには免許のコピーが必要で、名前や住所も書かされる。
 乗ってみると1800のシルバーのリスポンスは悪くない。年式は1997年。これが約8000ドルの価格帯である。加速も充分で、取り回しが楽で、安定感がある。次に黒のインプレッサを乗せてもらう。こちらの方が年式は少し古いし、1600だから価格帯としては少し安い。1600である分、多少パワー不足だ。みると、趣味の悪い光り輝くカーステレオが装備されていて、MDも聞ける。悪趣味だが、若者なら気に入るかもしれない。
 トムの話だと、こうした目立つパーツは、車の価格帯をつり上げるために付けられることがあるという。また、スポーティーなイメージの車に乗ってたり、外部にスペアタイヤをかっこよく装備したりしていると、運転手が車から離れた場合にいたずらされたり、よからぬ若い奴がパーツを持っていってしまう場合があるから、スポーティーな車はそうした点に気をつけないといけないと教えてくれる。
 彼によれば、スポーティーなイメージは、色にもあって、シルバーならいいが、赤などは目立つので標的になりやすいという。トムの話では、盗難車で一番多い日本の中古車もあるようだ。スポーツカータイプだから盗難されやすいので、視点を変えれば名誉なことでもあるのだが、車名も聞いたけれど、ここで紹介することは遠慮しておこう。
 次の中古車ディーラーに行ってみる。ここでは日産のウィングロードを見る。ウィングロードは私のイメージでは、若者向けのツーリングカー入門車という感じだが、こちらでは、おばあちゃんも乗れる車(granny car)だから目立たないとトムはいう。内心「本当かよ」という気持ちでトムの話を聞きながら、価格帯も、6000ドルから7000ドルくらいの奴なら充分走れると太鼓判を押す。荷物も充分載せられるし、あちこち旅行したあとで売る際にも価値は残っているからお薦めだというのだ。それで、実際に乗ってみた。まぁ可もなし不可もなしの走りで、価格帯も少し安めだから、これはこれで選択肢のひとつにはなるかもしれない。
 また別の中古車ディーラーで、赤のパルサーに乗せてもらう。また別の中古車ディーラーで、年式の新しい、排気量としては今日乗る中では一番小さい緑のパルサーに乗せてもらった。
 ということで、こうしてハミルトンにあるあちこちの中古車ディーラーに車で行き、あれこれと試乗させてもらった。中にはほとんどガソリンの入っていない車もあったりして、そうした場合、近くのガソリンスタンドで、「つけ」ならぬカードで「7ドル分だけガソリンを入れていいよ」というところもあった。もちろんカーディーラーは私が車を買うと思っているから、みんなフレンドリーで、トムは5人くらいのカーディーラーと、四方山話も含めて、あれこれおしゃべりを楽しみながら情報も入手している。
 それで試乗だが、これがまたすごくて、ハミルトン郊外まで走り抜けることができる。朝の8時30分に自宅を出たのだが、昼飯前には、試乗中のウィングロードで彼の自宅に駐車し、トムの自宅で彼がつくった昼ごはんを食べさせてもらった。その間、ウィングロードは、トムの自宅内に置きっぱなし。トムの奥さんで、アレックスの次女のジョニに、車を見せたりしている。
 やはり日本の感覚とは、かなり違うようだ。