今回の私の旅の主要目的であるレコーディングセッション見学の際に、たまたま知り合いになった作曲家ピーターがいる。
ピーターは、私の注目するアーティストの友人でもあり、長年仕事を一緒にしてきた人物だ。
ジェニーの取りはからいで、このピーターとサンタモニカのピザハウスでおち会うことになった。
ジェニーの車で一緒にサンタモニカへ出かける。ピザハウスでは、レコーディングセッションの第一日目で一緒だったポールと、ピーターがすでに来ていた。
アメリカ人は、再会するときに、大体抱き合うか、握手をする*1。
ジェニーとピーター、ジェニーとポールは抱き合って挨拶をし、私はピーター、ポールと握手を交わした。
ピーターは、私の好きなアーティストの演出を手がけていて、サンディエゴ、ニュヨーク、LAにそれぞれアパートを持って仕事をしているから、仕事の面では、かなり順調と言える。
現在はめずらしくオペラを手がけているようで、彼の最近の仕事ぶりを交流する。
たまたまナチスの話になった際に、映画「大脱走 [DVD]」の話になった。話は、縦横無尽に展開する。
ジュディとポールが質問役で、私はもっぱら聴き役である。
「ところで、あなたは何をしているの」とピーターに聞かれたところで、私は自分のことを喋りまくった。
仕事のこと、ニュージーランドのこと。そして、ジェニーやポールや私が共通して好きなアーティストは、音楽的にも豊かだが、彼の歌の歌詞が興味深いこと。
メーリングリストで、私がよく歌詞について質問をしたことを話した。
ジュディも「彼は私たちがなかなか簡単に答えられないむずかしい質問をするのよ」とか、ポールも「メーリングリストって、ときたま、ろくでもない話も多くて、音楽の話が少なくなるときがよくあるけど、彼が質問した際には音楽の話で盛り上がったね」と、私の質問をかなり評価してくれる。
実際、最初、私がメーリングリストに登場した際には、こいつは何者なんだと、かなり話題になったらしい。アメリカ合州国の文化に興味のある変な日本人といった想定で、メーリングリスト中の誰かが勝手につくりあげたイメージじゃないかという噂もあったようだ。
実際、主犯はディックじゃないかと、ジュディも誤解していた時期があったという。
さらに9・11の話になったので、「実は、安全が心配で、合州国には来るつもりはなかったんだ」と私が話したら、ポールが不思議そうに「なんで」というので、今の合州国には敵が少なくないこと、日本も無批判にアメリカ合州国に同調しているから、現在の日本も、安全面で不安が増してきていることを私は話した。
この私の話にピーターはうなずいていたから、彼には、私の話はよく理解してもらえたようだ。
前にも書いたたように、戦前の軍国主義の反省としての1945年の平和憲法の制定。そして、自由と民主主義の模範国としてのアメリカ合州国から学ぶという流れから、そもそも思想的に私はアメリカ合州国寄りだった。*2事実、私にとっての最初の外国はアメリカ合州国だったし、半年サンフランシスコで暮らして、3ヶ月はアメリカ合州国の各地を旅したのだった。
ところが私の娘ときたら、家族旅行で行ったアイルランドを別にすれば、自分一人でヨーロッパ各地やカナダ、フィリピン、タイとあちこち回っているくせに、例外的にハワイ島には私につき合って一度行ったことがあるけれど、自分でアメリカ合州国のメインランドには行ったことがない。今回交換留学生として一年間海外に出かけるというときにも、ニュージーランドを行き先に選ぶ始末だ。
私の息子も、高校生のときに一年間の留学先として、オーストラリアを選んで一年間タスマニアで過ごした*3。アメリカ合州国は当時の彼の選択肢にはなかった。
彼らは嫌米というよりも合州国に魅力を感じない脱米志向世代なのかもしれない。
アメリカ合州国びいきだった私も、ベトナム戦争からいまだに教訓を学べない合州国に嫌気がさし、好戦的な合州国に見切りをつけ、実は今回も合州国には来るつもりがなかったのだけれど、ジェニーのメールで、興味関心のあるアーティスト見たさに来てしまったと説明したら、ピーターが「やっぱり、大事なのは、ショービジネスだね」と言って、みんなで大笑いになった。
*1:再会のときや、別れのときにスキンシップするのは、アメリカ人も、キーウィも、マオリも同様。スキンシップが苦手なのは、日本人くらいか。
*2:この自由と民主主義の模範国としてのアメリカ合州国という把握の仕方は、実はかなり偏った、より正確にいえば、アメリカ合州国の戦略にまんまとはまった、洗脳されたイメージという認識に現在私は立っている。すでに古典ともいえる「アメリカ合州国 (朝日文庫)」(本多勝一)や、そして最近では、ジェームス三木の「悪魔のハレルヤ」という劇にもあったように、日本人のアメリカびいきは、CIAの策略と大いに関連しているだろう。http://www.seinengekijo.co.jp/s/hareruya/hareruya.html
*3:こういう風に書くと、英語教師を生業としている私が、自分の子どもたちにも、英語学習を積極的にすすめ、さらに留学も積極的にすすめているように誤解されるかもしれないが、実は子どもに英語学習を私から積極的にすすめる気持ちはほとんどない。それは、英語と格闘してきている自分の力量が中途半端で、英語を学んだことが必ずしも自分の私的幸福感と単純に結びついていないことが、その主たる理由である。私の子どもたちは、自分たちの気持ちで留学なども決めていた。たとえ薦めていたとしても、所詮留学なんて聞えのいい「荒行」や「武者修行」だから、本人たちに辛抱できるわけがないと思っている。