ニュージーランドの市民講座はなかなか面白い

三谷幸喜の「HR」

 昨日の水曜日は、「イギリス語を磨こう」(Improve Your English)の市民講座がある曜日で、これが結構面白い。ほんのちょっぴりだが、山田洋次監督の映画「学校」の雰囲気がちょっとある。いや、むしろ香取慎吾主演・三谷幸喜作の「HR DVD 3巻セット(Vol.2~4)」の雰囲気か。
 昨日は、講師ステファニーの旦那さんで元校長先生のビル(仮名)も登場して、韓国人のシンシアも入れると、なんと講師が三人という豪華さだった。
 インド人親子は、今日はお休みらしいが、新しく日本人のアイさん(仮名)が参加したので、生徒は都合6名だ。ステファニーは、「ちょっとレベルが違いすぎるから、あのインド人親子はもう来ないかもしれないわね。いずれにしても電話してみるわ」と、少し寂しそうに言っていた。
 まず初めにこの前書いた作文を返してもらった。もちろん添削がされている。ハンガリー人のジノ、ドイツ人のカート、ブラジル人のマノエル、それに私の作文が比較的間違いが少なかったと言われて、まずジノの作文が読み上げられた。
 ハンガリー人のジノの作文は、交換留学生としてニュージーランドにやって来てイギリス語を学んでいるというような内容を基本として書かれていた。この講座での彼女の要求はキーウィー英語を学びたいというもので、彼女の書いたものはとてもシンプルだけど大変理解しやすいイギリス語だった。「基本的な英語力という点で自分は問題ない」と自分でも作文の中で書いていたくらいで、彼女はいわば優等生タイプである。もう少し年上かと思ったけど、交換留学生だというから、高校から大学生くらいの年齢だろう。
 次に読み上げられたドイツ人のカートの作文は、前回のこの市民講座を終了してから、彼がバリ島に三週間遊びに行ったときの話だった。
 私が最も感心したものはブラジル人のマノエルの作文で、彼の作文には品があり、自分がどうしてこの講座を受講しに来たのか、どうして発音を学びたいのか、発音を学びたいという彼の気持ちが実によくあらわれている作文だった。講師のステファニーが彼の作文を読み上げているときに、心なしか、気持ち的にぐっときて、彼が少し涙ぐんでいるような気がした。
 マノエルは、ニュージーランドで暮らして7ヶ月になるらしいけれど、英語はずっと前から学んでいるのに、発音上の問題で意思疎通がうまくいかないことが何度となくあるという。なんというのか、逼迫した必然性があってここに来ているという彼の気持ちがよくあらわれている文章だった。
 これから比べると、私の書いたものは、ふわふわした腑抜けのような内容としか言いようがない。幸いなことに、私のものはみんなの前で読まれることはなかったけれど*1
 リスニングをしながら作文評価のあとで、マノエルの要求に応えるために具体的な発音練習がおこなわれた。ステファニーが言っていたけれど、個々の要求に応えるような授業をしたいと言っていたから、授業の進め方としてこれは正解である。
 次に、作文重視のステファニーの授業は、マノエルとカートと私とでグループになり、机の上の眼の前に置かれた雑誌の切り抜き写真を使って、何か一枚を取り上げ、作文をしなさいという課題だった。他のグループはまた別の課題をやっている。
 私がマオリの写真ではなく、漁船の写真を取り上げたら、講師のステファニーが「マオリの写真は選ばないの」というので、「それじゃマオリに変更します」と私が冗談で言ったら、「そのままでいいのよ」と笑って言ってくれた。生徒のことを、講師がよく知っているというわけだ。
 それから、一枚の紙が配られた。イギリス語で豊かに作文ができるように、その紙には、例えば、「好き」ばかりでなく、「好んでいる」とか「嗜好性がある」というような多様な表現ができるような表現がリスト化されていた。これはこれで使えそうだ。
 マノエルが最初に書き上げたので、元校長のビルが彼の作文を添削する。カートも書き上げ、私が最後だった。私は、例のテラパ(Te Rapa)の魚屋さんのことを書きあげた。早速ビルに添削してもらう。
 こまかな部分について、すぐに話ができてフィードバックできるというのはいい。自分が書いたものを母語話者に添削してもらったことはこれまで私は何度もあるけれど、自分が書いたものめぐって、母語話者とすぐに話し合うということはあまりやったことがない。それも元校長先生に添削してもらえるのだから、考えてみれば贅沢な話だ。
 校長をやり市議までやったビルはなかなか面白い人で、ステファニーの授業にいろいろと口をはさみたい様子だったけれど、そこは担当者に気をつかって、あくまでも出しゃばらないようにしている。彼は、生粋のキーウィーという感じだ。
 ビルが意に反して少し出しゃばったときなどは、キーウィー英語として今日の授業で扱った「後部座席からいちいち運転者に指示するうるさい奴」(backseat driver)*2を、早速使って、「おっと、バックシートドライバーにならないようにしないとね」と、大変ユーモアがある。
 カートと私に肩をまわしてウィンクをしたりして、ビルは友好的で気さくだ。日本の高校の校長先生のノリと一味も二味も違うけれど、これはこれでいい。
 最後のところで、キーウィー英語をいくつか習った。私の印象では、キーウィー英語というよりも、慣用的な表現が多く、これはこれで大変ためになった。
 授業が終わって、帰り際にブラジル人のマノエルと少し話をしたけれど、彼は日本にも来たことがあり、「馬の耳になんと言ったっけ」とか、「釣った魚は、、、」などの諺を知っている。「いまはフェミニズムの時代だから、さすがに「釣った魚」の例えはまずいと思うよ」と、正しておいたけど、マノエルは面白い奴だ。

*1:私の作文も、後日、講師から褒められたが、マノエルの作文は人の心を打つものがある。

*2:backseat driverという表現を私は大昔にサンフランシスコの英語集中講座で学んだ経験があるから、これは生粋のキーウィ英語なのかどうか、よくわからない。おそらく違うのではないか。