「カイテポイ、コウトウ?」「アイ」

 テ・マタティニとは、言ってみれば、マオリの文化祭典的な催し物である。
 昨日は、そのオープニングセレモニーだった。
 私は三日間の券を郵便局で買ったのだが、初日のオープニングセレモニーも入場できると書いてあるので、早速出かけてみた。テ・マタティニの看板は立派だけれど、まだ準備中のようで、誰もチケットのチェックなどしない雰囲気である。
 中に入ると、男子高校生や女子高校生がたくさん集まっているし、Tシャツ屋さんや、アイスクリーム屋さんも出ていて、ちょっとしたお祭り気分だ。
 たまたま話しかけたマオリの婦人が、友人を待っているということだったので話しかけてみた。
 彼女は4年前から参加しているという。今年はパーマストンノースが開催地だが、このテ・マタティニは開催年度毎に各地をまわるようだ。
 必ず来ているという彼女に、一体何が楽しみなのか聞いてみたら、プロトコル(儀式)だという。このプロトコルとは、私なりの理解で言うとこうなる。
 マオリは、自分が所属するマラエがある。イウィとかハプという概念がマオリにとって重要だ。そこに外部から訪問者(ビジター)が来るときに、交互に挨拶をし合う「やりとり」のことを、プロトコルと言う。彼女によれば、互いに知らないどうしが、挨拶をし合って、知り合いになる連帯感がいいらしい。
 音楽も好きだというので、フィリマコ=ブラック(Whirimako Black)の話を私がして、「他にお薦めの歌手はいませんか」と彼女に聞くと、以下の名前が出てきた。

  • Whirimako Black
  • Moana*1
  • Hinewehi Mohi

 他のマオリに聞いたところ、男性歌手では、ヒリニ=メルボルン*2がいいと言う。

  • Hirini Melbourne

 ヒネ=ウェヒの方は新しい歌手なので、CDはまだ出していないかもしれないとつけ足してくれた。モアナは、マオリ語で、もちろん「海」という意味だが、モアズというグループのリーダーだという。今回のテ・マタティニの中で、音楽好きのマオリに、お薦めの歌手を聞くつもりなので、これはまずまずの収穫である。
 オープニングセレモニーを待つ間、男子高校生三人組がハカの練習を観客席でしていたので、「君たちも出るの」と聞いたら、「地元なので、見に来ただけ」という。過去に参加したことのある生徒もいたが、パーマストンノースに住んでいるので初めての参加という子もいた。
 写真を撮らせてもらったら、「やばいな」という子がいたので、「君たちは、真面目な生徒、それとも悪い生徒」と冗談めいて私が尋ねたら、「悪い生徒は、ここには来ません」ときっぱりと言う。言われてみれば、マオリの伝統を継承するような文化行事だから、非行生徒向きでないことは確かだ。さらに聞くと、「自分の学校の代表として選ばれて自分たちは参加した」ということらしい。写真を撮らせてもらったお礼を言って、彼らと別れた。
 私が座っている座席の近くに、まだあどけない高校生がいたので、話しかけてみた。
 両親と姉が踊るために、クライストチャーチから来たという。「君は踊らないの」と聞くと、彼はあまり興味がなさそうな返事をした。
 会場係員にどこに座ったらいいのか聞くために自己紹介をしたら、鼻と鼻で挨拶をするホンギで返された。彼女はどうやら大会役員クラスらしい。ワイカト大学(The University of Waikato)のマラエでホンギをやったことはあるが、即興的な挨拶としては、初めての体験だ。
 そろそろ埋まり始めている観客席に向かって、担当者が、「カイテポイ、コウトウ?」(みなさん、大丈夫?)と、着席している観客に聞いている。返事は、「アイ」(はい)である。

*1:Moanaのものは、最初のアルバムがいいようだ。彼女は、モアハンターズ(The Moa hunters)というグループのリーダーである。「モア狩猟者たち」というのもなんともアオテアロアらしい名前だ。

*2:コンスピレーションアルバムらしいが、“Te Wao nui o Tane”というアルバムがお薦めだという。