21日の衆議院解散に大義はあるのか

Common Sense

 安倍首相は、18日夜、首相官邸で記者会見し、来年10月に予定されている消費税10%への引き上げを1年半(18か月)先送りし、21日に衆議院を解散すると表明した。
 この記者会見をテレビで見たが、「財政再建の旗を降ろすことはけっしてありません」。「再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言致します」。「一切ゆらぐことはありません」「重い思い決断」と、力と気合の入ったパフォーマンスだった。
 しかし、消費税を10%に上げることを、「景気判断条項を付すことなく」「確実に引き上げる」「次回は延期はない」「そう決意しています」と、これほど臆面もなく増税を強調する首相は歴代の首相の中でいなかったのではないか。

 高田渡の「値上げ」という歌があったが、この歌は「値上げはぜんぜん考えぬ」から始まり、「値上げがあるとしても今ではない」「値上げの時期は考えたい」と徐々に変化をしていき、最後、「値上げに踏み切ろう」という落ちのある唄だった。こうしたレトリックだったら、国民としてまだわかりやすいが、今回の安倍首相の解散声明の、その意図は見えやすいが、その内容はわかりにくい。


 現在、衆議院において、私たち連立与党、自民党公明党は多くの議席をいただいております。本当にありがたいことであります。
 選挙をしても議席を減らすだけだ、何を考えているんだという声があることも承知をしています。闘いとなれば、厳しい選挙となることはもとより覚悟の上であります。
 しかし税制は国民生活に密接にかかわっています。
 「代表なくして課税なし」。アメリカ独立戦争大義です。
 国民生活に大きな影響を与える税制において、重大な決断をした以上、また私たちがすすめている経済政策を、賛否両論あります、そして抵抗もある。その成長戦略を国民の皆さまとともにすすめていくためには、どうしても国民の皆さまの声を聞かなければならないと判断致しました。
 信なくば立たず。国民の信頼と協力なくして政治はなりたちません。
 いまアベノミクスに対して、失敗した、うまくいっていないというご批判があります。しかしではどうすればよいのか。具体的なアイデアは残念ながら、私は一度も聞いたことがありません。批判のための批判を繰り返し、立ち止まっている余裕は今の日本にはないんです。
 私たちがすすめている経済政策が間違っているのか正しいのか。本当に他に選択肢があるのかどうか。この選挙戦の論戦を通じて明らかにしてまいります。そして、国民の皆さまの声をうかがいたいと思います。

 よくよく考えてみると、「国民生活に大きな影響を与える税制において、重大な決断」というが、「景気判断条項」にもとづいて、今回は延期の判断をしただけではないのか。
 そもそも選挙をやる大義があるのか。
 なにが争点なのか。
 「賛否両論」ある、「抵抗もある」というが、「自民党公明党は多くの議席」を得て、実際に、原発再稼働問題でも、集団的自衛権特定秘密保護法案の問題や沖縄の問題でも、国民の声に耳を傾けずに、ほしいままにやってきたのではないか。
 少なくとも、原発再稼働問題では、多くの国民の声に耳を傾けているとは思えない。
 安倍首相は「立ち止まっている余裕は今の日本にはないんです」という。
 そうであれば、600億円とも700億円ともいわれる血税をつかってなぜ選挙をやるのか。
 一番、唖然としたのは、「代表なくして課税なし」の引用だ。
 もちろんアメリカ独立革命の中で用いられたと言われているスローガン*1だが、文脈が全く違う。
 安倍首相はもとより、安倍首相のブレーンやゴーストライターたちも大丈夫なのだろうか。
 全くよくわからない解散表明だったが、安倍首相がアメリカ合州国の歴史をきちんと学んでいないこと、それについてはよく理解できた声明だった。

*1:"No taxation without representation"という用語は誰がつくった用語なのか、誰が初めて用いた用語なのか、印刷された用語としては何が一番早いとされているのか、debatableのようだ。http://boston1775.blogspot.jp/2009/04/james-otis-jr-on-taxation-without.htmlhttp://boston1775.blogspot.jp/2009/04/looking-for-taxation-without.html