「うまく話せるようになるには、たくさん話さないとなりません」「エレガントな言葉の使い方は、ネイティブスピーカーの音声の訛りまでマスターしなくてもできます」(カウフマン)

 流暢に英語を話すことをテーマにしたキース・スピーキング・アカデミー(Keith Speaking Academy)による特別番組。タイトルは、「英語が流暢になる方法」("How to become fluent in English")。

www.bing.com

How to become fluent in English - Interview with Steve Kaufmann from LingQ - Bing video
 キース・オーヘア氏はIELTS英語スピーキング試験対策の人気講師。そのキースさんによるLingQのCEOで多言語話者のスティーブ・カウフマン(Steve Kaufmann)さんへのインタビュー*1。キースさんも現在LingQで中国語を学んでいるという。LingQならびにKeithさんの営業・プロモーションも入っているので、以下、そこは極力省いた。
 内容は、言語学習の大切な点を指摘していて、特に日本の言語環境における英語スピーキングの学びのありよう、話す際の発話の訛りの問題など、われわれにとっても大変参考になる内容になっている。

 以下、カウフマン氏とキースさんとのやりとりのあらましを紹介する。「あらまし訳者注」と記載した以外は、すべて、カウフマン氏とキース・オーヘア氏のやりとりを要約したもの。

 スティーブ・カウフマン氏の成育歴は、言語に囲まれた環境で、スウェーデン生まれだが、5歳のときにカナダに移住。カナダのモントリオールで育ち、母語スウェーデン語は忘れることになる。モントリオールは理屈上英語とフランス語の二重言語の都市だが、1950年代当時はまだ二重言語状態ではなかった*2。カウフマン氏によれば、現在のモントリオールはまさに二重言語状態だが、当時英語話者とフランス語話者との間ではコミュニケーションはとれなかった。カウフマン氏は、フランス語系の学校に通ったが、フランス語は話せなかった。当時の教育法は動詞や助動詞を教えるような伝統的な文法主義だったが、よい先生もいて、大学に進み、フランス語を学んで、フランスに3年間住んだ。フランス滞在のときは、スペインまでヒッチハイクをしていくらかスペイン語を話したこともある。政府のための仕事を得て、香港へ。香港では中国語を学び*3、その後、日本で材木商をした。日本では日本語を学んだ*4。最近の15年間は、LingQを始めたこともあり、最も外国語学習に集中した時期といえる。ロシア語・朝鮮語ギリシャ語・アラブ語・ペルシャ語を学んできた。仕事のために外国語を学んだときもあるが、あれこれ探し求め、違う言語や人間の世界の存在を知ることは楽しいことだと感じている。
 (なぜスティーブ・カウフマン氏がLingQをつくったのかということについては多少の宣伝にもなるため割愛。ただしLingQは語彙に特化した学習方法で、学習者の全く知らない未知の語彙から、知らなければならない語彙、そして既知の語彙というように語彙を整理していく方法であるようだ)
 
 カウフマン氏の考えによると、言語習得においては、文法ではなく語彙が難しいと考えてきた。したがって、lingQでも語彙に重点を置く学習方法を考えた。豊富なリスニングとリーディングをインプットして語彙を学べば、表現語句も文法も修得できる。少なくとも文法の説明が意味をなしてくる。氏によれば、伝統的な学習方法が抱える問題は、最初から文法を学ぶことにある。豊富なリスニングとリーディングがないうちに、たとえ文法を教えても、学習者にとっては興味が湧かないし、インプットが少ないうちは教えた文法項目は実際に役に立たない。多読・多聴をすれば、その語彙は、聞いたり読んだりしてわかる語彙に、そこからさらに使える語彙となって、語彙が増えていく。
 さて流暢とはどの程度をいうのか。スティーブ・カウフマン氏によれば、流暢とは、上手に話せる(speak well)ということで、CEFR*5でB2のレベルをいう。ただし、アメリカ合州国やイギリスの会社で働くには、B2では足らない。けれども、カウフマン氏の考えによれば、B2で十分流暢である。B2レベルのスピーキングは、ミスはするし、時々理解が足りないときもあるし、単語がうまく見つからないこともあるが、会話に入っていけるし、政治や歴史をはじめ広範囲の話題について語ることができる。相手も居心地悪くは感じないし、自分も居心地の悪い感じではない。それがB2のレベル。
 カウフマン氏の推奨する学習方法では、リスニングとリーディングのインプットを豊富におこなってから、スピーキングに移るわけだが、そのスピーキングの水準を上げるには、「とどのつまり、スピーキングは、たくさんしなければ上手にならない」(“Eventually, to speak well, you have to speak a lot!”)ということになる。学習対象言語が日常的に話されていない言語環境の場合は、流暢に話せるようになるための話す機会が少ないために、流暢に話せるようになるのは難しくなるということだ。アイトーキー(italki)などのオンラインを使って週に5日間話したとしても、週に5時間話したとしても、話す機会として十分とはいえない。
 カウフマン氏の考えによると、自然な語句表現(natural phrasing) 、正しい語順(correct word order)は純粋文法より重要であるし、発音より、自然な表現語句や正しい語順が大切である。カウフマン氏の知り合いにスイス訛り(accent)の強いスイス人を知っているが、一般的にいって、彼の使う英語は、イギリス人よりも、ものすごく自然でエレガントで正確である。(キースさんが「多分(彼は)ロンドンですね」との発言に対して、カウフマン氏は、「わかりませんが」とやりとりしていた)
 多言語話者のカウフマン氏にとって、氏の考えでは、(文法や発音よりも)語彙の使用のほうが基本なのである。
 カウフマン氏は「ネイティブスピーカーの音声をマスターしなくとも、エレガントな言語の使い方ができます」(“You can build up elegant use of the language, without necessarily nailing(mastering) that native speaker accent”)という。

 ( あらましの訳者注:IELTS受験のためのスピーキング講師であるキースさんが、IELTSの試験では発音は見るけれど、アクセント(訛り)は評価対象としていない。生徒は気にするが、アクセント(訛り)は重要ではありませんとキースさんがカウフマン氏に賛意を示していたのが印象的だった。)
 カウフマン氏は、いまアラブ語、ペルシャ語を学んでいるが、カウフマン氏がアラブ語・ペルシャ語が話されていないカナダのバンクーバーで、どのように練習しているかというキースさんの質問に対して、氏は、オンライン家庭教師に頼っていると答えた。カウフマン氏が住んでいるバンクーバ―で、アラブ語・ペルシャ語が話される機会は少ないが、イラン人が店主の場合、ペルシャ語で話しかけるという。けれどもやはりそうした機会は多くはないという。カウフマン氏のこれまでの経験では、チェコ語ギリシャ語・ロシア語などを学んだときは、その言語が話されている外国に行って話をした。それが外国旅行の魅力のひとつでもある。ただ、アラブ語・ペルシャ語の場合、バンクーバーでは話す機会は少ない。

   英語はあふれているので、英語の場合は環境が違っている。今はポッドキャストもある。「ハッピースクライブ」(happyscribe.com)*6というのがある。これを使えば、ペルシャ語ポッドキャストのテキストが手に入る。英語の場合は、言うまでもなく、さまざまな分野のポッドキャストがある。そのテキストを入手できれば学習材料に事欠かない。スピーキングは、その言語を話すことのできる環境の場所があればよいが、そうでなければ、オンライン家庭教師を、交換条件で使うか、有料で使うか、それは別にしてオンライン家庭教師の利用となるだろう。
 カウフマン氏によれば、外国語を学ぶ際に、その学ぶ順番は、リスニングとリーディングに初めに取り組むとよいという。初期段階ではスピーキングは取り組まなくてよい。リスニングの取り組みは簡単である。ながらで聞ける。当然理解できないことも多い。そこで聞いた内容をテキストを使って読む。少しだけ理解できる。また聞く。リスニングとリーディングを交互に取り組む。とくに重要な動詞を攻める。基礎ができたら自分の興味関心のある素材に向かう。ネットフリックスでもよい。エピソードがたくさんあるものなら、その世界に入っていきやすい。
 カウフマン氏は、自主独立の学び手であり、学習方法を知ることも重要だという。自分の学びをコントロールすることが重要であるからだ。学びには、自分が主導権を握らなければならない。そのためには自分が何に興味あるのか知らないといけない。教室で教師が教科書何ページからと生徒に教えようとしても生徒が興味を持たないこともある。いまやインターネットのお陰で、自分の興味のあるものを探すことはそれほど難しくない。内容的にも音声的にも、自分の耳にとって心地よい素材を選ぶことが大切だ。自分にとって役に立つものを、そうした教材を探すには、それなりの努力も必要になる。学びには、自分が自分の主人公になって主導権をとることが大切。たとえば、カウフマン氏はLingQをやっているが、単語や語句でいえば、自分にはどのような語句が必要なのか、自分で判断する必要がある。先生が決めることではない。学習段階やタイミングのこともある。自分に必要なものはなにか、自分の弱点はなにか、自分が判断する必要がある。
 文法でもたとえば助動詞など、それまでのインプットが十分で、助動詞に興味をもち始めて、助動詞について学びたいという気持ちや動機づけが大切だ。自分の学びについては、自分が主人公になることが大切ということだ。
 年齢が高くなると外国語学習は難しいという考え方があるが、カウフマン氏によれば、学ぶ際の年齢は関係がないように思うとのこと。どの程度の動機の度合いなのか、いかに自分が自分の主人公であるか、障害になることが多い要因が、興味深い内容が身近にあるのか(たとえば、氏の経験によるとロシア語の場合、たくさんあったという)。これらが大きな要因だという。よくどの言語が好きかと聞かれることがあるけれど、どの言語も楽しい。
 IELTSの受験生へのアドバイスとしては、自分はIELTSを受けたことがないし、むしろキースさんのほうがプロなわけだが、日本の本屋さんで書棚にあった問題集を眺めたことがあり、語彙水準とリーディングの速度が重要だと思った。リスニングとリーディングをたくさんすれば、どれが文法的に正しいかはわかるはずで、実際受けたことはないが、カウフマン氏が受験に取り組むとすれば、テスト対策というより、むしろ英語に関する全体の総合的な力を伸ばしたいという。
 テストの点数が高くても、コミュニケートできない場合もあるわけで、英語の総合力を伸ばすという考え方にはキースさんも深くうなずいていた。

 以上が、カウフマン氏とキースさんとのやりとりのあらまし。

 外国語学習と日本の言語環境との関係を考えるうえでも大変参考になった。

*1:キースさんもスティーブさんも本ブログで紹介したことがある。次を参照のこと。YouTubeで安全・安心・安価に「 なんちゃって語学留学」 ーそのオンライン英語学習時間割を空想してみたー - amamuの日記 (hatenablog.com)

*2:モントリオールは、バイリンガル都市と言われるが、公用語としてはフランス語だけで大半の住民にとって英語はあくまで第二言語という扱いのようだ。

*3:いまやMP3の時代だが、カウフマン氏が中国語を学んだときはオープンリールを使っていたという。まさに隔世の感がある。

*4:別の動画で氏は、継続してではないが9年間日本にいたという。

*5:CEFR(セファール)は、「ヨーロッパ言語共通参照枠」のこと。CEFR(Common European Framework of Reference for Languages)は、もちろん英語に限らない。A1、 A2、 B1,、B2,、C1、C2の6段階に分かれている。

*6:音声をテキストに、動画にキャプションをつけてくれるサービスのようだ。カウフマン氏によれば、最近は、その精度が上がっているという。