英語学習にカラオケ、おすすめです

 植民地根性に陥っては身もふたもないのだけれど、外国語を学ぶ際には、多少は真似ることが必要だ。

 外国語を学ぶ際には、音読やシャドーイングもよい練習とされる。インプットとアウトプットに唄*1や映画*2やテレビ番組*3を教材に使うのも悪くない。

 ということで、今回は、カラオケ*4の効用について書く。

 カラオケの効用の前にひとつだけ。英語シャドーイングについては、以前、以下の記事で書いたことがある。

amamu.hatenablog.com

 これは、PCとヘッドフォン・イアフォン・マイクをつかってのシャドーイングについてを書いた。シャドーイングにつかうモデル材料は YouTube にある。それで、あなたのPCハードディスクに入っているかもしれない洋楽なども材料に使えるだろうという文脈で、次のように付記した。

本格的なカラオケとはいえないけれど、PCに好きな洋楽を取り込んでいれば、カラオケ的に歌って楽しむこともできる。

 最近は、YouTube のコンテンツの充実がいちじるしい。著作権はだいじょうぶなのかというくらい何でもある*5

 それで、本論のカラオケだが、これも今やすでに YouTube に何でもあることを最近知った。歌詞(lyrics)もついているから、歌詞を見ながら歌える。カラオケなのだが、これは電子黒板で音読しているようなものだ。昔は、歌詞カードを見ながらレコードを使って歌ったものだが、これは隔世の感がある。

 "karaoke songs with lyrics"”YouTube"などの語句で検索すればでてくる。ご希望のアーティストの名前を入れてもよい。

 インプットとアウトプットをバランスよく学ぶという点では、英語学習者に圧倒的にアウトプットが少ないもとで、実際に発音をしてみる、発話をしてみる、音読をしてみる、歌ってみるというのはとても大事なことだ。

 実際にアウトプットをしてみて、理解が深まる、インプットも伸びる、歌ってみて英語がよくわかるということがある。

 言語体系の文法を学ぶ際には、時間をかけることができる。これが言語学習。語彙増強も、じっくり時間をかけて蓄えることができる。これは、ラングのお勉強と言ってもよい。

 一方、言語活動を学ぶ際には、時間をかけることはできない。リスニングなど、相手のスピードについていき乗っていかないといけない。スピード・リズムが大切になる。そのためのパワーが必要になる*6。これは、パロールのお勉強と言ってもよい。

(1)カラオケは言語活動的だから、スピードの重要性について理解できる*7

(2)スピードとリズムの練習になるので、音の連結(linking)や押韻、発音に意識的にならざるをえない。

(3)こうした言語活動の練習の結果として、語彙力増強(vocabulary building)と慣用表現(idiomatic expressions)が身につく。

 最近はテレビでYouTube を見ることもできるから、以前の記事で紹介したようなPCセットも必要ない。YouTube で好きな唄を歌うだけだ。

 ということで、英語学習、とくに言語活動の学習に、カラオケはおすすめである。

 では、なんの唄を歌ったらよいのか。

 興味のある唄ならなんでもよいだろう。

 といっても、何のてがかりもない方向けに、何か一曲だけ紹介するとすれば、比較的簡単な歌詞で、超ゆっくりで、多少歌いやすいものとして、Carole King の"Will You Still Love Me Tomorrow" *8を以下に張りつけておこう。

 これが一番おすすめというより、あくまでもカラオケのサンプルとして考えていただきたい。ただスピードの点でいえば、この唄は本当にゆっくりだから初心者におすすめだ。

www.youtube.com

 

 実際に歌ってみると、「よくわからなかったけれど、つまるところ、これは失恋の唄なのね」「ああ、こんな唄だったのか。知らなかった」「これは日本でいえば入魂の演歌だな」「たわいのない、毒にも薬にもならない唄だな」など、いろいろな発見があって面白い。これは自分で経験しないといけない言語(活動的)体験だ。

 さて、カラオケで選ぶ唄は次の観点で選ぶとよいと思う。

(1)語彙的に文法的に、意味のかたまり(sense group)(breath group)として、わかりやすい歌詞を選ぶ。
(2)スピードでは、ゆっくり感じられるもの(60WPMくらい)から段階的に早く感じられるもの(140WPMや160WPMなど100WPM以上)へ。
(3)音程で歌いやすいもの。
(4)アクセス回数をみてどの程度人気があるかを知り、唄の評価を相対化する

 時間をかけてじっくりと学ぶ言語学習としては次がおすすめである。

(1)語彙でわからないものを辞書で調べる。

(2)慣用表現を調べる。慣用表現は、辞書より、インターネットなどのコーパスビッグデータで調べたほうが効率よく調べられるだろう。

(3)ヒットソングであれば、背景的解説も読んでみる。

 そして、まさに言語活動学習として、実際にカラオケで歌ってみる。

 すると、舌がもつれてうまく歌えないことに気がつくだろう。呼吸法を意識するだろう。身体にも意識が及ぶだろう。けれども、カラオケで歌うことは「理解のともなう音読」*9の練習となって、徐々に語彙も慣用表現も身体に入ってくることだろう(internalize)。そして、段々に、唄のメッセージがイメージ豊かに頭に入ってくるだろう。

 ということで、言語活動学習として言語学習として、カラオケで英語学習はおすすめなのである。

*1:かけだし英語教師の頃に編んだインプット用のソングブックがある。かけだし英語教師の頃に編んだソングブック - amamuの日記

*2:かけだし英語教師の頃よく映画を教材にしたことがある。次はその一端。映画”Oh, God!”を久しぶりに観た - amamuの日記

*3:テレビ番組ではクイズ番組が比較的扱いやすいと思う。クイズ番組について、次の記事を書いたことがある。教材としてのアメリカ合州国のクイズ番組 - amamuの日記

*4:カラオケは、英語でkaraokeと綴るが、その発音は、カリオーキと発音することが多い。これは「カラの」「オーケストラ」というそもそもの日本語の合成語の成り立ちを知らない英語母語話者の発音だからだろう。

*5:YouTube上の著作権については、本来著作権上問題があるのだが、著作権者から放置されている例も少なくないようだ。

*6:言語活動とリズム・スピード・パワーについては、何度か書いたことがある。ふたたび「言語活動」について=「リズム」「スピード」「パワー」= - amamuの日記

*7:スピード・リズムについていくためのパワー不足とパワーの必要性も感じるはずだ。パワー不足からくるリズム感の悪さとスピード感の不足 - amamuの日記

*8:Carole King のアルバム"Tapestry"からのヴァージョンだが、女性グループのシュレルズ(The Shirelles)による1961年のシングルは全米1位を記録している。

*9:「理解のともなう音読」とは私の造語で、一分間に160語くらいのスピードでゆっくりと、自分で音読しながら、そのままの語順で理解できる直読直解式の音読のこと。初級者の段階では、「音読」と「理解」は分裂しているのが普通。かなりの練習を積まないと「理解のともなう音読」は難しい。100WPMくらいで「音読」と「理解」がなんとかつながってきても、不安定な状態が続くだろう。また同一の学習者であっても、「理解のともなう音読」が可能か否かは、もちろん語彙水準や使われている文法水準によって異なってくる。日本語と英語とでは、統語論と語彙がまるで違っているため、いわば語順の違いを乗り越える「理解のともなう音読」は、「語順の征服」が不可欠となり、通常、日本人にとっては簡単な課題とは言い難い。