岸田政権が、安倍政権以上に、次から次へと悪法を通し、悪政を継続しているのは、実に驚くべきことだ。
まずヒロシマを利用して核抑止論を是認したことは、とりわけ被爆国の首相として許されざる政治的行為であり、ヒロシマへの冒涜として長く語り継がれなくてはならない。ロシアのウクライナ侵略が許されないことは当然のことだが、危険回避が政治の役割であるのに、危険性のあるNATOへの一方的肩入れに踏み込もうとしていることは、日本の安全・安心を阻害しつつある。
アメリカ合州国のポチよろしく2倍の防衛費という大軍拡の推進、危険な敵基地攻撃能力の容認、軍事産業の礼讃は、戦後日本のあり方(平和憲法体制)を大転換させるもので到底容認できない。さらに入管法改悪、LGBTQ法、インボイス導入等々、そして、来年2024年秋に*1従来の保険証の廃止を決定した、いわゆるマイナ保険証問題。
来年2024年秋にこれまでの保険証の廃止をしてマイナ保険証に一本化する決定は、自民党・公明党・日本維新の会*2・国民民主党によって強行採決された。
悪政の限りを尽くし、ここに来てのマイナ保険証問題は、映画「椿三十郎」でいえば、「もはや「これまでですな」(室戸半兵衛)」という気がしてならない。
というのも、ハードウェアのリーダー機械による読みとりがまずいなど、さまざまな理由から、マイナ保険証を使っても資格確認ができない不具合が報告されている。現在の保険証を同時に持参している件数が多いことから現場がなんとか対応できている始末…。
30秒も静止させられる顔認証の認証がうまくいかない。顔認証の機械が悪いのか、画素数低い写真で登録したことが悪いのか、いずれにせよ、本人確認ができず使いものにならない。あるいは誰でも顔認証ができてしまうというカードもあるという。
さらに暗証番号が必要というハードルの高さ、めんどくささ。
保険料をきちんとおさめているのにもかかわらず、資格確認ができないから、持参したマイナ保険証では無効といわれ、診療に10割負担を強いられる理不尽さ。
保険証はもとより、マイナンバーカードに、運転免許証や、母子手帳や、あるいは大学入室許可証など、なんでも紐づけしようとして*3一枚で済まそうとしているが、いまは現行の保険証(本物)をバックアップとして持参しているから対応してもらえているが、こうしたバックアップ(本物)がなくなったら、マイナンバーカードという使いものにならないカード(偽物)以外の何でバックアップにできるのか。考えるに空恐ろしいものがある。
ここで思い出すのは、役所になかなか電話がつながらず、オンライン申請をネットでやってくれと言われてもネット環境のないデジタルディバイド被害者ともいうべきケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」だ。
あるいは映画「釣りバカ日誌19」。
「釣りバカ日誌19」の冒頭には自分の身分証明書(カードキー)で自分の部屋である会長室に入れない鈴木会長が怒って帰ろうとする場面がある。ロビーで「なんで私の身分証明書でカギを開けなければいけないんです。ここはわたしがつくった会社なんだよ」と怒鳴る鈴木会長(三國連太郎)に対してカードキーの導入は避けられないと怒りをしずめていただくよう新社長が会長にお願いする場面だ。
現代では、こうしたテクノストレスに無縁の人は皆無だろう。マイナカードはその最たるものであり、最も危険なものではないのか。
いま出されているマイナ保険証の問題は、本人確認ができない、資格確認ができないという、こうした一次被害だけではない。
なぜ使えないのかという二次被害や他人の情報で治療にあたられるという医療の安全性を阻害する二次被害に発展する可能性がある。2割・3割という窓口負担割合の間違いに対する対応や、すぐに治療を受けられない被害をはじめ、医療現場は、ただでさえ忙しいのに、全く無駄な対応を強いられる。たとえば、コールセンターにつながらない。保険組合に連絡が取れない。またあらたに設置した高額な読みとり機械に対する心配も増える。最悪なことは、他人と紐づいた医療カルテとの取違えからくる誤治療・誤施術など、不要な医療事故の危険にさらされることだ。医療をおこなう現場も医療をうけようとする受診者も双方が被害者だから、被害者と被害者の混乱から、受診者も医療現場も実際の苦労と心労は増えるばかりだろう。
厚労省アンケートですら、メリット実感なしというアンケート結果は当然のことだ。
これらは、マイナ保険証使用者がまだ6%に過ぎないともいわれる中で*4生じていることで、今後増えることはあっても減ることはないだろう。
マイナ保険証は、受付で障害が生じるだけでなく、適切な医療が望めない、健康と命を害する可能性のあるポンコツ制度と言わなくてはならない。
そもそも、一言号令で、従来の紙の保険証をマイナ保険証にかえるというが、これはシステムの大転換だから、膨大なエネルギーと膨大なコストがかかる。公務労働者にも、膨大な負荷がかかる。
新美南吉の「おぢいさんのランプ」は、ランプから電気に変わろうとしている時代に、主役の座を電気に譲らざるをえなくなったランプを池の縁の木にぶら下げて火を灯し、泣きながら石を投げつけてランプを割る悲しい話だが、マイナカードは、立派に使える本物の保険証をニセモノともいうべきマイナカードが追いやる話としか言いようがない。
マイナ保険証地獄は人災に他ならない。
あらためて言うが、すべての国民が公的医療保険に加入するという、日本の公的医療保険、国民皆保険制度は世界に誇れるものだ。戦後営々と作り上げてきた国民的共通財産である。国民健康保険・健康保険・共済組合・後期高齢者などの健康保険証で安心して医療が受けられる。暗証番号など不要だ。しかしマイナ保険証では、有資格者なのに無資格扱いとなる可能性があり不利益変更にほかならない。
では、こんなずさんなマイナ保険証をなぜ中止しないのか*5。
これは総務官僚の天下り先にもなるNTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NEC、富士通、日立製作所などITゼネコン利権*6がからんでいて、従来の紙の保険証をマイナ保険証に切り替えるだけでも、膨大なエネルギーと国民の膨大な税金をはじめとするコストが必要とされ、独占となれば、ビジネスをゼロベースから生み出し、底なしのビジネスモデルに、つまりICチップに底無しのうまみを見て、そこに底なしの儲けが生まれるからだろう。
そもそも国民がもっている重要な情報を民間業者に預けてよいのだろうか。さらに、なんでもかんでも紐づけするというマイナンバーカードは、疑ってかかるべきものではないのか。本音は国民の情報がほしいということなのではないか。そんなものが国民のためのものであるはずがない。「ICチップの「拡張利用領域」への入力や管理システムの構築は、総務省と地方公共団体でつくる」地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が「「マイナンバーカードアプリケーション搭載システム導入事業」として、ほぼ独占受注している」(Business Journal)。国民のためのものでないことは、利用規約*7ひとつとってみても、わかるのではないか。むしろマイナンバーカードは、国民支配のためのものであり、ITゼネコン利権のためのものであることに留意すべきだ。単純に考えても、ひとりひとりの大切な個人情報が漏洩されたり、その結果、悪用されたりする危険性がマイナンバーカードには存在するだろう。リスク管理としての解決法は簡単。廃止である。
20000ポイントというアメや、保険証を人質にしてのマイナ保険証などのムチをみても、その政策のいかがわしさは言うまでもない。
しかし、これほどポンコツとは思わなかったというのも為政者の本音という気もする。そもそも登録も丸投げ、「総点検」*8も丸投げというITリタラシーの低い為政者は、現場の意見を聞かず命令だけすればよいと思っている節がある。そして、いまや、退くも地獄、進むのも地獄ということになってしまったのだろう。
支配権力が倒れるときの要素・原因を考えてみると、まず矛盾の拡大があげられる。矛盾が深刻である。そしてその矛盾を広げなければ、倒れることはなかったという歴史的教訓は少なくない。
さて、今回のマイナ保険証問題は、どうか。
これは、全国民を敵にまわしたのではないか。地方自治体や公務労働者、各知事も敵にまわしたのではないか。権力支配自体の困難さと反対運動の活性化は必至だろう。
従来の保険証でなんの問題もないのに、国民の健康と命をないがしろにして、利権にむらがり食いものにしてしまった。 国民個人はマイナスだけの人権侵害を被るだけだ。医療労働者、公務労働者への被害も甚大なものになるだろう。したがって、反対団体・反対組織も反対個人・反対市民も、増えることはあっても減ることはないだろう。
政権内でも、亀裂が生じることは必至である。河野デジタル大臣・岸田首相の失墜を狙ったキングメーカーの思惑とも取り立たされているが、国民の怒りは予想以上になるだろう。今後多分、対応策として妥協案もさまざま出されるだろう。けれども、マイナカードをめぐる政権が抱える矛盾を政権自身が解決策を見つけることはないだろう。大切なことは、デジタル大臣や首相の退陣だけにとどめてはならないということだ。
黒澤明の「椿三十郎」について、以前次のように書いたことがある。
黒沢明の「椿三十郎」(1962年)は、俺の好きな映画だ。
黒藤(志村喬)と竹林(藤原釜足)の汚職に、井坂(加山雄三)ら若侍たちが憤慨して決起し、井坂の叔父でもある睦田城代家老(伊藤雄之助)のところに意見書を届けにいくが、破り捨てられてしまう。次に井坂が大目付の菊井(清水将夫)のところに行くと、菊井は、城代家老の対応とはうって変わって、城代家老の慧眼を恐れて、「この際あなたたち若い人たちとともに立ちましょう」と、若侍たちの決起を励ます。映画の冒頭で、若侍たちの密談で、井坂がこう報告すると、若侍たちは勇気づけられて喜ぶが、その話をたまたま聞いた素浪人・椿三十郎(三船敏郎)は、側聞からの推測にすぎないのだが、誰が本当の悪人で誰が味方なのか、当事者でないほうがよくみえると、全体構図を分析してみせる。菊井のほうが悪い奴で、睦田城代家老のほうが本物ではないかというのだ。腕っぷしも相当に強いのだが、椿三十郎の強みは、こうした観察眼と洞察力の鋭さにある。
こうして観客は、映画の冒頭で、難なく全体構図を理解してしまうのだが、「悪い奴ほどよく眠る」(1960年)と同様、映画の冒頭から全体構図を示してくれるのは、黒沢映画がわかりやすく面白い理由のひとつだ。
立憲民主党の良識派と、れいわ、社民党、日本共産党ら革新勢力と市民が国民的大運動を呼びかけ大同団結することにしか展望はないだろう。政権維持のため、そして大増税を推し進めるため、政権側によるあっと驚く政界再編もあるかもしれない。野党勢力においても分裂がある可能性もあるが、騙されないことが肝要だ。
今回のマイナ保険証問題は、政党においても、個人においても、ホンモノかニセモノか、あぶりだしてしまった。
「椿三十郎」のように、われわれも「観察眼と洞察力」を鋭くする必要がある。
*1:マイナ保険証にたいする国民的批判から時期を遅らせる可能性があるが。
*2: 杉尾立憲民主党参院議員によれば、「私はなんでもかんでも個人情報を紐づけしたくはありません」と委員会で発言した際に、日本維新の会の猪瀬元東京都知事は、だから立憲はダメなんだとヤジを飛ばしたという。杉尾氏は、維新は自民党よりマイナンバーカードに前のめりだという。
*3:現在、マイナポータルで、29の紐づけができるようになっており、今後増やす計画になっている。
*4:マイナンバーカード取得者が7割。そのうちの7割がマイナ保険証を取得していると言われている。そのうちの実際の使用者はさらに割合が低く、現在6%くらいということなのだろう。いずれにしても、初動段階でのさまざまな不具合というのが実態であろう。
*5:私生活において週刊誌ネタになっている木原誠二官房副長官も中止にするつもりはないとのTVインタビューが報じられている。たとえば、木原誠二氏、保険証廃止方針の変更は「ない」 テレビ番組で発言 | 毎日新聞を参照。
*6:たとえば、マイナカード利権、総務省の外郭団体が一社独占受注…高額な費用見積もり提示を参照のこと。またたとえば、全商連[全国商工新聞] マイナンバーで潤う?! 大企業・官僚・自民党 利権まみれの制度を参照のこと。
*7:たとえば、政府は「一切の責任を負わず」? マイナポータル利用規約に疑問の声:朝日新聞デジタルを参照のこと。
*8:2023年の秋までに総点検すると命令が下ったが、これは不可能という見通しが専門家のもっぱらの判断であり、推進組織も認めている。