「辛抱づよく」「成長を信じて」「自分の主人公になって」「コトバを学んでいるその瞬間を楽しもう」(スティーブ・カウフマン)

 外国語学習とはどういうものなのか、深めるために、最近、これまで多言語を学び、実際に多言語話者であるスティーブ・カウフマン(Steve Kaufmann)氏の動画をみて学び直している。

 氏の動画を見ていると、もちろん氏が代表をつとめるLingQの宣伝をするつもりはないのだが、そうしたビジネスの話を乗り越えて、外国語(言語)を学ぶことが心底好きなのだというカウフマン氏の姿勢が伝わってきて楽しい。スティーブ・カウフマン氏に対しては好印象だ。

 わたしの観察では、カウフマン氏は、バランスのとれた、前向きで、楽観的な性格の人格だと思う。

 バランスのとれたというのは、カウフマン氏が、スウェーデン生まれのカナダ移民*1で、おそらく5歳から家庭言語は英語とし、学校ではフランス語を学んだこと。これはまぁ移民であれば普通にあることだろう。学校でフランス語を学び、フランスに留学したり、スペイン語をかじったりドイツ語を話したりと、カナダだから、ここまでは、まぁわかる*2。その後、カナダの政府の仕事を得て、香港にわたり、中国語を学ぶ。このアジアの言語を学ぶあたりから、すこし変わっているというか、あまり聞かない経験をしている印象がある。さらに日本に来て、日本語を学ぶ。中国語学習で漢字をたくさん学んだため、日本語の敷居は低かったという。ロシア語やトルコ語、さらに最近では、アラビア語ペルシャ語等々を学んでいる。氏の学び方は、語彙修得から入って多読・多聴からスピーキングに移行するため目標は日常会話レベルではない。アラビア語ペルシャ語も同様の学び方。この辺になると、LingQというビジネスが関わっているといっても、かなりの変人と言えまいか。氏の話を聞いていると、さまざまな文化にたいする姿勢のバランスのよさが理解できる。外国語オタクというような奇人・変人のような印象もない。家庭をかえりみずという風でもなく、よき家庭人のようだし、バランス感覚に長けている。その辺が好印象なのである。

 外国語学習は、語彙をぽつぽつ拾っていく長いみちのりだが、本動画にあるように、辛抱強く、学んだことは、小さくとも必ずプラスになると、自分の成長を信じて、あきらめることなく学ぶ姿勢。学ぶ際には、自分が自分の主人公になって、自発的に、率先して学ぶ。そして、学んでいるその瞬間、その時間を楽しむ。カウフマン氏の話を聞いていると、今日学んだひとつの語彙も、たとえ、数日後に忘れたとしても、それぞれが糧になるのだという揺るぎないプラス思考が感じられる。学んだものは、ひとつひとつ、栄養になり、力になるという感じだ。

 われわれがよく耳にする、日本にいるから外国語をマスターするなんて無理、日本の学校の英語教育では英語をマスターするなんて無理、留学しなければ外国語をマスターするなんて無理等々。こうしたよく聞かれる神話やマイナス思考はカウフマン氏の口からは全く聞かれない。

 なにしろ多言語主義を地で行っているのが気分がよい。

 以下、スティーブ・カウフマン氏の「言語(外国語)学習に成功するには何が必要か」(What makes a successful language learner?)を紹介する。
 

www.bing.com

What Makes a Successful Language Learner? - Bing video

 以下は、カウフマン氏のお話のあらまし。

 外国語学習は、住んでいる場所や、よい教材がたやすく手に入るか、学ぼうとする言語と自分の母語がどれほど隔たりがあるのか、など、客観的に考えられなければならないこと(objective considerations)があるけれど、主観的要因(subjective factors)もある。

 今日はそれを話してみたい。
 コトバの学習は、劇的にうまくなることはない。だから継続することが大切。そして継続するには、辛抱強く我慢しなければならない。
 読んだり、聞いたり、アプリで学んだり、学びを継続している限り、進歩しているという信念をもつことが大切。辛抱強く信念をもつこと。
 集中的に学習したり、話す機会があれば、たしかに上達は速い。けれども、言語学習に時間を使っている限り、コトバの学びとしては上達する。だから辛抱強くなければいけない。コトバを学ぶんでいるその時間自体を楽しむとよい。
 もうひとつ大事なことは、自分の主人公になる(initiative)ということ。
 わからない統語論や語彙など、むかしと違って、今の時代、ググることができる*3。先生に指示されて学びを開始するのではなく、自分が自分の主人公になって、自発的に、率先して、学ぶことが大切。
 わたしの助言は、それぞれが矛盾することになるかもしれない。けれども、辛抱強く、学んでいるその瞬間を大切にする。誰かの指示を待って、誰かの指示で学習を開始するのではなく、今日はネットフリックスを見ようとか、今日はこの文法項目を学ぼうとか、自分が自分の主人公になって、自分が主導権を握ることが重要。

 コトバの学習は、完璧になることはないし、忘れるし、前に聞いた教材を聞いたらまたわからないとか、簡単には進まない。わからないことに辛抱強くならないといけない。学んでいるその瞬間を楽しむ(just enjoy the moment)。いまやっていることは楽しめるものだし、いまやっていることを楽しもう。

 以上が、カウフマン氏の話のあらまし。

 外国語学習にたいするスティーブ・カウフマン氏の助言は、日本の外国語学習者にたいしても、すぐれた助言と思う。

*1:ティーブ・カウフマン氏の両親はチェコユダヤ人。チェコユダヤ人は家庭ではチェコ語かドイツ語。カナダに移り住んだので、ヨーロッパ語でなく家庭では英語だろうと両親が考えたという。別の動画でカウフマン氏が言っていた。どの外国語でもその言語の優雅なところ(エレガンス)を感じないといけないと強調するこの動画も大変興味深い。【🇩🇪ドイツ語がペラペラになる】20ヶ国語話せる人に聞いてみた❗️ドイツ語と日本語の違いも教えてもらった - YouTube

*2:カナダには英語圏とフランス語圏があり、主流と聞くが、双方のコミュニケーションは、われわれが想像するほど、バイリンガル状況でもないらしい。イギリス語を母語とする家庭にとってのフランス語は、スティーブ・カウフマン氏の話からすると、日本人にとっての英語とそれほどには変わらないという印象を得た。

*3:わたしは使ったことがなかいが、カウフマン氏は、ポッドキャストを聞くためのPocket Castsを紹介していた。あとスキャニングペンについても触れていた。